瓦屋根「風切り丸の機能性」(機能美が洗練された結果としての様式美:和瓦・和型J形瓦) [屋根には「瓦」]
先日、このBLOGで「風切り丸(かざきりまる)」の写真を一点紹介させていただいたところ、最近の簡易施工の屋根のみを見慣れていらっしゃる多くの方たちに新鮮だったようで、思いのほか大きな反響がありました。
今回は、「風切り丸」の紹介とその機能性に付いて書かせていただきます。
風切り丸の施工例(役瓦の種類や施工で様々な装いの可能な和瓦)
業界紙へ寄稿「屋根の重要性の再認識こそが、粘土瓦そして和瓦の復興につながる」
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-12-13
まず「風切り丸」というのは、和瓦の施工で切り妻屋根の妻側(袖部:写真で言うと右端)に上から下まで傾斜に添って筋状に流した施工で、意匠によって重なりのない「素丸」と言われる冠瓦を流したモノや、重なりのある「紐丸瓦」を使ったモノ、二本流したモノや、途中で止めた施工など、様々な装いが可能です。
私は「風切り丸」を使った屋根が好きで、同じ切り妻屋根でも風切り丸があるかどうか?で、装いに大きな違いがあると感じています。
屋根の輪郭がハッキリして、なにか屋根全体の格調を高めているように見えますが、皆様はどう感じられますでしょうか?
使い方にはいろいろなパターンがあります
実はこの「風切り丸」は、意匠上の問題だけではなく、先人より培われてきた長い経験による必然性から生まれてきた物です。
昨今、地震による屋根の被害や家屋の被害が取りざたされることが多いですが、一生に一度あるかどうかの地震以上に、先人が心を砕いてきた災害があります。
それは台風などの強風対策で、最近こそ防災瓦の普及(三州で最初に今の形の防災瓦を製造したのは我が社だったりします)で被害事例は減りましたが、少し前までは台風が上陸すると必ず取りざたされてきたのが強風による屋根瓦の飛散であり、それを防ぐために先人たちは多くの智恵を引き絞りました。
例えば、独自の赤瓦で知られる沖縄の屋根は、瓦全てを漆喰で包んで接着し毎年訪れる台風に負けない屋根を作りましたし、冬の強い季節風に晒される新潟県などは、かなり昔から銅線による全数堅結など、それぞれの地域地域で災害に負けない独自の工法を育てていきました。
「風切り丸」はそんな先人の知恵が結集した、非常に優れた防災工法の一つでした。
都市としての風洞実験
屋根瓦の風洞実験
私の居る瓦業界では毎年の台風被害に何らかの歯止めをするために、数十年前より実際の風洞を使った縮尺模型による試験や、実際の建物を使ったフィールド試験、または風力を機械力に置き換えた工法試験など、学術的な観点から大学や公的研究期間と手を組んで様々な実証実験や理論検証を行ってきています。
その過程で
- 瓦は真ん中から飛ぶ場合はほとんど無く、切り妻屋根であれば妻側(袖側)から飛ぶ
- 寄せ棟屋根であれば、隅棟の近くから飛ぶ
- 端に近い棟際の瓦は飛びやすい
- 一枚めくれるとその隙間から風が入り、被害が屋根全体に拡大してゆく
等の結果が、浮かび上がってきました。
(これは、私たち屋根業界の人間が実際の台風被害の現場で感じていたのと、ほぼ同様な結果です。)
強風による屋根の主な被害箇所
今では、これらの被害は防災瓦の使用でほとんどの場合防ぐことが出来ますが、先人たちはどう対処したのでしょうか?
その対策の一つが、「風切り丸」だったのです。
建築基準法によるピーク風力計数の図
この図は、建築基準法で定められた切り妻屋根の各部に必要な風による瓦の引き上げ力を表した図(ピーク外圧係数)ですが、色の濃い部分は色の付いていない部分に比べて約二倍瓦を引きはがす力が生じることになります。
(この図を作るのにも、私たちの業界で行った試験が一役買っています)
上の写真をよく見てください。
前の図を見た後にこの施工写真を見ると、ピーク外圧係数の高い部分に「棟瓦」や「鬼瓦」、はたまた「風切り丸」や「下り棟(くだりむね)」が施工されていることにお気づきのことだと思います。
実は「風切り丸」のみならず、「鬼瓦」や「高い棟」、積み上げられた「隅棟」や「下り棟」、「巴蓋(ともえぶた)」にまで、意匠だけではない強風に対応するためのノウハウの積み重ねがあったわけです。
私は、最初この符合に気がついたとき、先人のあまりにも深い知恵に戦慄しました。
瓦屋根の美しさは様式美だと捉えられがちですが、実は優れた機能美の発露で、それが洗練されていった結果として様式美が生まれたのだと、頓悟いたしました。
こんな屋根とは全然違いますね(実は我が家)
納まり自体は様々なバリエーションがあります(下に鬼瓦が付いているのは「下り棟」で同様な効果が有ります)
また当初の私の認識は、強風時の瓦を引き剥がそうという力に対して、風切り丸の重量と二重三重の堅結によって対処したものだとの認識でいましたが、幾つかの耐風実験に立ち会い、風学会に加入していらっしゃる先生方との接触の中で、「風切り丸」や「高い棟」が空力的に非常に有利な施工である可能性が高いとのコメントを直接耳にし、さらに驚愕を深めました。
長くなりそうなので、「風切り丸の優れた空力性能と五重塔の風力モデル(仮題)」へつづけます。
(以後、「高い棟には意味がある」「和瓦の装いの多様性」「屋根は重い方が良い(軽い屋根材と台風被害」へと続けてゆきたいのですが、最後まで辿り着くのは何時になるでしょうか?)
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PS.
施工については、お洒落な瓦屋さんのBLOGに良い記事がありましたので紹介させていただきます。
風切り丸完成 お洒落な屋根 山田瓦店-CURURU
http://myhome.cururu.jp/osharena/blog/list/dc2007-06-28
目玉のおやじ(笑) お洒落な屋根 山田瓦店-CURURU
http://myhome.cururu.jp/osharena/blog/list/dc2007-06-27
下り棟の上手な積み方 お洒落な屋根 山田瓦店-CURURU
http://myhome.cururu.jp/osharena/blog/list/dc2007-10-13
いつもniceありがとうございます。さすがです。非常にわかりやすいです。
これからも、様々な角度から瓦および瓦屋根についての魅力を語ってください。
by (2008-01-23 20:07)
すみません、「かざきりまる」と読めばいいのでしょうか?
まさしく、風を切るのですね。
先人の知恵、たいへんおもしろく読みました。
by tsk (2008-01-23 21:36)
なるほど。
明日から沿道の家々の屋根を見る目が変わってきそうです。
by kappa (2008-01-23 21:49)
いや〜、なかなか楽しく拝読いたしました。
これまで「鬼瓦はお金持ちがつけるもの」「風切丸(この名前は初めて知りました)は瓦が余ったから予備のために積んであるもの」くらいにしか思ってませんでした。
古くからの木造建築もそうですが、瓦屋根も技術というか智慧のカタマリですね〜。
by nina (2008-01-24 00:43)
これは風きり丸と言うんですか・・・・名前からしてイキですね。
初めて知りました。
by (2008-01-24 06:27)
いつもの事ながら、文章力と説得力に感嘆します。
「先人が長い時間を掛けてやってきたことには、これっぽっちのムダもない」ことの証明をしていただいた気がします。
よくコマーシャルで、煙が車の外観に沿って通り過ぎる、風切りの映像がありますよね。
結局の所、「あれと同じ状態」を風切り丸瓦で、作り出しているのではないでしょうか?
それにしても、最近こちらでは全くと言っていいほど見かけませんね。
by アキラ (2008-01-24 09:13)
一真さん、昔から伝わる伝統構法のほとんどに何らかの意味があり、歴史の風雪を超えることにより更に洗練され、様式として残ったと言う風に聞いています。
私の知る範囲はこの程度のことなのですが、建築基準法のピーク風力係数の図が発表になったとき、業界の中で様々な実験や研究に立ち会い、耐風などの被災地にも何度か足を運んで感覚的に感じていたことが公的に認められたような気がして、あっと驚いたことが昨日のことのようです。
和瓦の今の形状にしても、台風での最大風速がどの方角から吹く場合が多いのか?と、南向きに立ちがちな家の建てられる角度と密接に結びついたりもしています。
歴史の風雪を耐えてきた物には、些かの無駄もないと感じています。
(悲しいのは最近それらが使われ無くなりつつあることですが...。)
nice! &コメント、ありがとうございます!
by たいせい (2008-01-24 09:29)
tskさん、「風切り丸」の読み方は、仰るように「かざきりまる」です。(本文中にも読み仮名を一カ所入れておきました)
私は、tskさんが建てられた木組みの家(貫構法?)も、伝統的な考え方に基づいた意味のある構法だと考えています。
戦後の物資不足の中で、バラックを建てるための簡易構法から発達した今の構法より、遙かに信頼性のおける物が伝統の中に含まれていると感じています。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-24 09:35)
kappaさん、私はこの業界に入るまで家を見ても屋根まで視線を上げることはほとんどありませんでした。(家の隣で家族総出で瓦を作っていてもそんな物でした)。
もしこの記事が、一人でも奥の方に屋根を見上げてくださる切っ掛けになったとすると、本当に嬉しく思います。
モジュール化された多種多様のパーツを組み立てて、様々な装いが演出できるのが和瓦の特徴で、同じ地区の屋根でも、工事される職人さんの感覚や趣味によって少しずつ様式が異なったりもしていて、見慣れてくると本当に面白いかと思います。
nice! &コメント、ありがとうございます!
by たいせい (2008-01-24 09:45)
ninaさん、ヨーロッパの瓦屋根と日本の瓦屋根とどこが違うのかを考えていたことがあります。
私見ですが、違いのほとんどは風に対する備えに起因する物で、具体的には「棟が高く積んであるかどうか」と「瓦の長さが少し短い」ことの二点に収束すると感じています。
(ヨーロッパの瓦も大半は日本と同じ山谷のある形状で、フラットな瓦はほとんど存在していません。:洋風屋根にはフラットな瓦というのは単なるデマです)
すっきりシンプルに納めようとすればそれも出来るし、重厚な外観が欲しければそんな納め方も可能なのが和瓦で、もし興味を持っていただけるようであれば、是非近所や旅先の屋根を見てください。
思いの外バリエーションに富み、面白い世界だと思いますよ。
nice! &コメント、ありがとうございました!
PS.
鬼瓦などは、工場生産の汎用品から、装飾性にこだわった鬼師が作る手作りの世界までピンキリです。
普通の物ならば、施工も含めてそんなにお金のかかる物ではありません。
by たいせい (2008-01-24 09:56)
「風切り丸」の話ってはじめて聞きました。
いやー!そうだったんですか!という新鮮な驚きの気分です。
こういうことは素人は全く知らないことなのでどんどん発信してほしいです。
きっと瓦をみる一般の人の目も変ると思います。プロですね~!凄い!
by toyo (2008-01-24 09:58)
STEALTHさん、私も「風切り丸」と言うこの呼称がとっても大好きです。
何やら颯爽とした、爽やかな語感がとても良いですね!
もっと一般の方たちも含めて、屋根まで目線を上げていただけるように、頑張って記事を書かなければ!
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-24 09:59)
アキラさん、実は神奈川県は人口一人当たりの瓦の出荷量が日本で一番少ない県の一つです。(山梨県より出荷総数が少ないです)
組合関連の調査で、住宅展示場の外装についての定点観測をす年伊地知度行っていたことがあり、横浜の日本最大規模の住宅展示場に定期的に足を運んでいましたが、粘土瓦の展示住宅がほとんど無く、毎回悲しい思いをしたのを良く覚えています。
(二十年くらい前までは、我が社も主要出荷先だったのですが...。:藤沢や平塚、相模原や小田原には何軒もお客様がありました。)
アキラさんに一点お伺いしたいのですが、最近、平板瓦しか出荷の無くなった地域で、あえて和瓦で勝負して外装面の差別化で成功していらっしゃる中小の住宅会社の話をお客様経由で耳にする機会ができはじめたのですが、神奈川県ではそんな可能性は無さそうでしょうか?
和瓦の復権というテーマを掲げる以上、避けては通れぬテーマなので非常に興味があります。
逆に私の方からお聞きすることとなっていまい非常に恐縮かつ失礼なこととで申し訳ありませんが、もしこのコメントを目にしていただけるようであれば、私信でも結構ですのでご教授下さると嬉しく思います。
nice! &コメント、ありがとうございました!
PS.
屋根以外の伝統構法を自分なりに調べていくと、仰るような「先人が長い時間を掛けてやってきたことには、これっぽっちのムダもない」に行き着くことが多いと感じています。
「風切り丸」についても、ご指摘のような空力的な優位性も確かにあると感じており、風学会の正会員の先生から教えていただいた
「五重の塔の縮小模型による風洞実験で、高い隅棟があるのと無いのと空力性能に格段の違いがある」
「風切り丸についても同様な効果がある可能性が高い」
と言う内容のを膨らませた記事を、次に書こうと思っています。
by たいせい (2008-01-24 10:48)
本日AKIRAと現場に向かう
道すがら、屋根ばかりみてました。
たしかにあまりありませんね。
地主級の旧家や寺院で、見つけた
程度で言われるまで気づきません
でした。教えてくださり有り難う
ございます。
by macoto (2008-01-24 16:04)
toyoさん、各地の気候風土によって様々な工法や様式が採用されており、「風切り丸」は強風地域での採用比率の高い施工法かもしれません。
例えば同じ雪国でも、雪の質と気温や積雪量によって棟の高さは千差万別で、それぞれの地域による工法が存在しています。(中には迷信と感じる工法もありますが...。)
積雪時に雪を割って左右に落とすために棟は高い方が良いとの考え方の地域もありますし、空力的な考え方で棟の風下側に吹きだまりが出来るから棟は低い方が良いとの声も聞いたことがあります。
中越地震や昨年の中越沖地震の現地調査の時に感じたことなのですが、新潟県は特に市町村などの地域ごとに工法の違いが多くあるところとの印象があり(それだけ気候風土が厳しくバラエティに富んでいると言うことです)、機会を見つけ、カメラを持って細かく歩いてみたいところの一つです。
(ただ昨今は、中央のハウスメーカーの進出で雪のない太平洋側で培われた、それも簡易施工が新潟県にも蔓延しつつありますが...。)
いずれにしても、一人でも多くの方に屋根に関心を持っていただき、誠実で真っ当な屋根職人が、安定した生活を基盤として存分に腕を発揮できるようになっていただきたいものです。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-24 16:24)
macotoさん、旧家や社寺仏閣だと屋根も重厚に見えるように作ってあり、現代的な感覚にマッチする屋根というのは、少なかったのではないでしょうか?
この記事で紹介した「風切り丸」もそうなのですが、すっきり見える袖瓦や軒瓦、アクセントを付けられる特徴のあるパーツ(役瓦)などもまだまだ工業生産ベースに乗っており、ちょっとした気遣いを持って取り組めば、特徴ある外観を、意外なほど少ない価格差で作り出すことが可能です。
あまり写真などが無く恐縮なのですが、現代的な感覚の建築家の手にかかると、社寺仏閣や旧家の持つイメージとは違う新しい装いに驚くことが時々あります。
(もちろん旧家の風合いを残し、それでいて新しい風合いを得ることも出来ます)
和瓦の復権。
やり方によっては、十分可能性があると踏んでいるのですが...。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-24 16:37)
勉強になりました。
地震は一生に一回・・・・そう、耐震は営業トークのようになってきています。
耐風はしょっちゅうなので、実は、こちらの方が一年に数回あることで、結構、重要なのです。
日本ではクローズアップしがちの耐震ですが、外国だと、耐風の方が当然厳しいのです。
by 家の構造にうるさい建築家 (2008-01-24 18:11)
nice! コメント頂きありがとうございました。お互いに頑張って乗り切りましょう。
by yanasan (2008-01-24 19:10)
わかって建築家さん、私は瓦の製造業という立場で伝統的な工法(屋根の納まり)には意味があると言うことと、様々な納まりを改めて紹介することにより和瓦の幅広い表現力を知っていただきたいとの思いでこの記事を書きました。
(可能であれば、現代的な感覚でこれを現在の建物に利用していただける方と巡り会い、新しい和瓦の装いを模索したいとの思いも持っています。)
台風対策で言うと、新しい施工法や防災瓦の普及で瓦屋根については飛散などの被害がほとんどでなくなり、昨今の台風被害は板金屋根のめくれ上がりや、いわゆる軽い屋根材での小屋組ごと持って行かれたり、野地板ごと飛散したりする事例の方が、遙かに多く発生するようになっているとの実感を持っています。
また、構造については素人で恐縮なのですが、台風設計を加味して構造の検討をした場合には、屋根材の重さによる構造的な影響は意外なほど小さいと聞いてもいます。
そう考えると、「屋根は重い方が良い」と言う考え方も成り立つのではないか?と思えるときもあります。
もう少し、屋根(特に和瓦)の価値について認められてしかるべきだと考えているのですが...。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-25 08:45)
yanasanさん、記事を読んでうちの近くで仕事をしていらっしゃると思い、思わずコメントを付けてしまいました。
今後ともよろしくお願いいたします。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-25 08:51)
こんにちは、大成さん。
確かに、広島の厳島神社も、山(谷)から吹き抜ける強風を上手く避けるように、見事に計算されているという番組を以前観たことがあります。
古代から脈々と続く、先人たちの知恵、大事にすべきでしょうね。
by 三介 (2008-01-25 11:32)
たいせいさん
お問い合わせの軒、少し時間をください。
私の意見だけではなく、瓦屋さんや大工さんにも聞いてみたいと思いますので・・・
by アキラ (2008-01-25 14:20)
今晩は、大成さん。建通新聞の報道では。
http://www.kentsu.co.jp/tokyo/news/p05145.html
「【東京】関東ブロック関係省庁連絡会議が初会合(01/25)
■ 改正建築基準法施行に伴う混乱に対応するために立ち上げた「関東ブロック関係省庁連絡会議」が1月24日、さいたま新都心合同庁舎で初会合を開いた。この中で、小川富由国土交通省大臣官房審議官は、ことし12月に施行する木造2階建てなど「4号建築物」に対する構造審査省略の特例廃止措置について、運用時期を延期することを明らかにした。」
当面先送りのようですね。当然でしょう。仕切りなおしですね。
構造ソフトも各ソフト会社が、『認定制度』ソノモノに疑義を申し出始めていますよ。こちらも、今後どうなることやら・・。
http://d.hatena.ne.jp/vohowo/20080125
by 三介 (2008-01-25 21:16)
アキラさん、真剣にお考えいただき本当にありがとうございます。
実際には、外壁も含めて昔のままの装いでの復権は非常に難しいと感じていますが、記の記事で紹介した風切り丸や、他の様々な装い、従来とは違う色(洋風になります)など様々なアプローチが出来、個々の要素については意外なほど若い方たちにも受け入れていただけるとの印象を持っています。
現代的な感覚でそれらをこなすことが出来ると、和瓦からイメージされる住空間を、もっと洗練された形で表現したり、或いは「これって和瓦?」といった斬新なイメージの建物を生み出せる可能性は高いと踏んでいます。
当社の出荷状況を見ると、特殊な色や、特殊な形状の瓦を一度出荷すると、暫く後に二棟目・三棟目と同一地域で同様の特殊な瓦の出荷が相次ぐことがあります。
よくよく話を伺うと、最初の建物を見られたお客様が「あの家と同じようにして欲しい」との要望を出すことによって続いてくるようです。
ハウスメーカーの場合は、同一仕様で生産できる家を建てなければ成りませんが、地域の工務店の場合「この仕様なら○○工務店」ということで経営が十分成り立つ場合が多く、その特徴の部分に「和瓦」を吸えていただける可能性も出始めているようにあります。
なによりも、新規着工減少の原因が少子高齢化であるとすると、長男長女の結婚により、両親のうちの条件の良い土地の上に建て替えるという「二世帯こだわり住宅」の絶対数は増えてくると踏んでいます。
(もちろん都市近郊部ではどこまでも安い建て売りも増え、二極化に向かうのでは?)
そんな状況をベースにして、時代は御施主様個々にあわせた多様化に向かっており、設備機器などは既にその流れの中に入っています。
私が可能性を探ってゆきたいのはその部分で、外装材の和瓦でその世界を作り出せる見込みがあるのかどうか?と言うことです。
大変お手数をお掛けすることになり恐縮なのですが、よろしくお願いいたします。
by たいせい (2008-01-26 09:00)
三介さん、この記事ではたまたま私が知りうる限りと言うことで瓦について取りあげたわけですが、いわゆる伝統構法の成立過程も似たような状況の中で出来上がったものだと推測しています。
構造についての様々な理論や知見は、現実の建物を調査・分析することによって生まれたはずなのに、その理論が現実に建っていて時代の風雪を耐えた建物を否定しているかのように見えるのは、本末転倒なことだと思われて仕方ありません。
4号特例廃止が片付いたとしても、その後に残る伝統構法の問題を重く受け止めています。
コメントありがとうございました!
PS.
4号特例廃止の延期、何とか確定したようですね。
ただ問題は、延期されたとは言え廃止ではないので、その後お役人が鉛筆を舐め舐め、どんな荒唐無稽な制度を考え出すのか不安で仕方ありません。
妙なメンツを捨てて、仕切り直しをしていただきたいものです...。
by たいせい (2008-01-26 09:08)
先人が長い時間を掛けてやってきたことには、これっぽっちのムダもない
という言葉に感銘を受けました。
私もただ屋根の格の問題だと思っていましたがこんな役割があったとは
大変勉強になりました。
続きの記事楽しみにしております。
by しゃくとりむし (2008-01-26 09:57)
しゃくとりむしさん、私は瓦のことしかよく解りませんが、本などを読んでいると建物本体の伝統構法も、様々な部位で先人たちが経験により積み上げてきた同様のノウハウが結集されているようです。
200年住宅なんて言われてますが、本当に200年持つと実証されている建物は伝統構法以外に存在しておらず、もっと見直されて欲しいと思っています。
nice! &コメント、ありがとうございます!
by たいせい (2008-01-28 10:19)
大変興味深く拝見致しました。
あれが風切り丸と言う名称だとは知りませんでした。
イメージですが、空力学的な形状ですよね。
真横からの風だったら、ダウンフォースが発生して押える効果が得られ
そうですもん。
昨年、僕は逆に「五重塔は風に弱い」と言うような元東大の坂本先生の
お話を紹介しました。
たいせいさんのご研究報告、楽しみに致します。
でもって、坂本先生に質問してみますよ。(←意地悪じゃないですよ)
by 浜松自宅カフェ (2008-01-28 20:55)
いつもの力作!敬服します。
〔建築基準法関係告示〕平成 12 年 1458 号
屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件
端は風が渦をまくのですよね。
by sei-kita (2008-01-28 21:03)
浜町自宅カフェさん、私は当初負のピーク外圧係数が高い袖部(妻側)近くの桟瓦(平部)の上に瓦を乗せてそれを留め付けることに依る、その部分に限定した堅結効果が非常に大きいと考えていましたが、有識者のお話をうかがうと風の流線をどうコントロールするか?と言う観点で考えられた空力的な形状と読み解くことが出来ると言うものでした。(詳しくは次の記事に。:いつになるかな?)
五重塔の件に関しては、実際に縮小模型で行った風洞実験で、当初予測していた物より随分建物としての風力特性が良かったそうです。
そこで、高い隅棟を外した実験も行って、高い隅棟が空力的に大きな影響を及ぼすことを実体験で感じられたと言うことです。
(論文を持っていて、今読み解いていますが専門用語が多く難解です。:当然の事ながら著作権が私の物ではないので、ネットで公開できませんがお渡しすることは可能です。)
瓦の形状は、瓦の脱落のみ成らず建物本体の空力特性にも影響を与えているようです。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-29 09:18)
sei-kitaさん、屋根の端で起こる風邪の渦をどうコントロールして、風の流線を如何に建物本体から遠ざけるか?というのがミソのようです。
つまり屋根の各部に当たる風の瞬間的な絶対値を少しでも小さくして、ピーク外圧係数を小さくすると言うことだと認識していますが、専門外でありどの程度頭の中でこなせた解りやすい記事にできるか?、チャレンジしてみます。
nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-01-29 09:30)
いつもながら、勉強させていただきました。
機能美+様式美。これぞ、先人の知恵ですね。
和瓦プロジェクトは現在進行中です。
できるかどうかわかりませんが、
また、色々ご教授お願いします。
by plusgate (2008-01-29 14:28)
plusgateさん、この記事にこれほど多くのコメントが付くというのは、私にとって本当に大きな驚きでした。
瓦業界は結構この手のことは歴史的にも真面目に取り組んでいて、様々な実験データはまだまだ豊富にあります。
自分自身この手の濃い記事は、それなりに時間もかかりそう度々UP出来るわけではありませんが、皆様方の関心の高さに大きな力をいただいていますので、今後も取り組んで見たいと考えています。
(さしあたっては、続編なのですが...。)
nice! &コメント、本当にありがとうございます!
by たいせい (2008-01-30 16:13)
こんんちは。大成さん。
こないだ、日経のケンプラッツだったかな、伝統工法の「強さ」の実験を報じてましたよ。
ええと、どこの研究室だったかな、あ、違った東京新聞でした。
「東京新聞:伝統的住宅、強かった 建築研究所が耐震実験:社会(TOKYO Web)」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008012901000707.html
「建築研究所の河合直人上席研究員は「予想以上に強かった。伝統的構造物も、正しく設計すれば大きな地震に耐えられることが実証できた」と話している。」
ね。好いニュースでしょ。
by 三介 (2008-01-31 13:11)
三介さん、貴重な情報ありがとうございました。
私自身、何度も記事で紹介させていただいている災害被災地の視察などで、キチンと建てられた伝統構法の建物や、壁量計算で有ってられた建物の耐久性は大丈夫だとの確信を持っています。
ただ問題なのは、どうやってこれを現在の確認申請のシステムの中に入れるか?と言うことなのでしょうね。
個人的には、建築基準法での規制は文字通り最低限の基準を定め規制するに留め、それぞれの構法を推奨している民間団体の責任による認証制と言うことでしか対処が難しいような気がします。
出来ればその団体が地域ブランド申請なども行い、「○○大工伝統構法」などブランドとして成立するようになれば、先は開けていくのでしょうが...。
(性悪説の法制度から性善説に切り替えて、なおかつ市場原理の導入でもあり、「小さな政府」「グローバルスタンダードの推進」出もあると思うのですが!?)
by たいせい (2008-01-31 16:03)
実は瓦について全く知識がなく、「風切り丸」が、いったい何処を指すのか分かりませんで、他のサイトで屋根の傾斜にそって、いわばレールのように2本程度、盛り上がった土手のごとく、勾配の下まで故意に置かれた、装飾のための瓦の葺き方の様式、と理解するまで時間がかかってしまいました。申し訳ありません。
それが、航空理論のように、風圧に耐える工夫がチャンとされていることには、驚きました。日本の職人がやることですから、不思議はないのですが、様式どおりに施工させ、結果として台風などの災害から屋根と住人を守っていたとは。解明されて初めて、様式を破る危険を感じました。でも、遊び心一杯のデザインのように見せ、多くを語らぬところも、素人さんにはわからないから・・・と気を使っている職人魂を感じました。
最近は12階程度のマンションでも、防水工事が大変なため、瓦屋根にするところが増えました。陸屋根ですと、防水工事を定期的に行うため、かなり費用がかかりますが、瓦葺はコストが安いとか。第一丈夫だと聞きました。イロイロあるのですね。
by hoihoihoi (2008-07-03 21:18)
hoihoihoiさん、私が記事に出来るのは瓦屋根に限られているのですが、建築全般について多くの場合様式美としてkんが得られているモノには何らかの機能性の裏打ちがあり、建築年代により技術の進歩(職人の試行錯誤)の足跡まで見ることが出来るようです。
亡くなられた法隆寺の宮大工:西岡常一頭領の本などを読んでいると、その辺りの名もない職人の試行錯誤やこだわりが随所に見られ、建築に関わっていなくとも社寺仏閣を見る目が変わるのではないかと思います。
(数百年絶えてしまった職人の技術も、建物の場合数百年に一度の解体修理の際などに現代の職人があまりの智恵の深さに気がつき、復活するなどという事例もあるようです)
ビルの防水の件ですが、うちでは多少台湾への輸出があるのですが、台湾のマンションやビルのほとんどが仰るように陸屋根の防水工事の品詞やメンテナンス性の問題から傾斜屋根が採用されて、瓦が葺かれる場合が多いと実感しています。
ついでながら台湾の瓦の輸入元は中国やマレーシアなど沢山あるのですが、made IN JAPANが最高品質で高くとも価値があると言うことになっています。
コメントありがとうございました!
PS.
コメント入力が上手くいかなかったようで、お手数をお掛けしました。
by たいせい (2008-07-04 09:26)
風切り丸について、目からうろこでした。伝統が受け継がれていく大切さを思い知らされました。残念ながら我が家は風切り丸はついていません。建てる前に知っていたらなぁ、という心境です。
by kido_azusa (2009-04-08 16:56)
kido_azusaさん、記事中にも書きましたがこの事実に気づいたときに古人の智恵のあまりの深さに感動し、しばし我を忘れてしまいました。
古い建築について書いた本などを読むと、やはり洋式だと考えられていた工法や意匠の多くにはやはり何らかの技術的な意味がありやはり古人の智恵の結晶なのだと書いてあるケースを幾つか目にもしていましたので、我が瓦業界にもそれが存在していたのだと感じ、飛び上がりたいぐらい嬉しくなったのを思いまします。
結局職人同士の切磋琢磨の中で、現実に災害などがあった際に自分の施工法と他人の施工法を比べたりしながら様々な試行錯誤を経て数百年の歴史の風雪に耐えて残った施工法が様式として確立していったのでしょうね。
本来的に言うと所詮建築に関わる学問などと言うものは、時代の風雪を耐え今に残る建物を「何故この建築は災害に持ったのか?」を分析するところから始まったわけで、最新の建築学で建てられた建物と言えども時代の風雪を経験しているわけではなく、日本の気候風土の中で実績のある構法の方が遙かに信頼がおけると感じています。
(現にこの記事で書いた風切り丸などについても、ごく最近になってようやく分析が可能になった事例です。)
構法や工法についての本来のアプローチも、何故伝統的な工法がよいのか?ではなくて、何故信頼性に実績のある伝統的な工法を変える必要があるのか?と言う保守的なアプローチでなくてはならないのでしょうね。
もっと、伝統的な工法の信頼性が認められても良いはずなのですが...。
nice! &コメント、ありがとうございました!
これからもお気軽にコメント下さい。
PS.
最近諸般の事情で瓦関連の記事があまり書けていないのですが、利害関係がほぼ無くなりかけていますので、もう暫くしたらまた書き出すつもりでいます。
by たいせい (2009-04-09 11:22)