古民家は良いなぁー!「津島市-堀田家住宅:内藤満里子先生インスタレーション」 [屋根には「瓦」]
11月11日(水)。 愛知県津島市の重要文化財「堀田家住宅」で行われている、妻の生け花・お茶の師匠である内藤満里子先生のインスタレーションに行ってきました。
インスタレーションは毎年この時期にどこかの古民家を借り切って行われており、私自身としては瓦の製造という建築業界の端くれにいたこともあって、今年はどんな古民家が舞台なのか?と毎年楽しみにしています。
(と言っても、私が主に見るのは屋根なのですが)
今回の会場となった「堀田家住宅」も大変素晴らしい建物で、特に行ってみたら「梲(うだつ)」があがっており「忍び返し」などもあって、これまで見てきた古民家とはまた別の風情を感じました。
今回は写真が多くなりますが、古民家の屋根の様子とこの古民家を使ったインスタレーション、そして会場付近で見つけた鬼瓦を紹介させていただきます。(会期は13日(金)までありますので、時間のある方は是非足をお運び下さい。)
「梲(うだつ)のあがる家」
私が行った11日は愛知では未明に大雨があり、その影響もあり日中ずっと雨。
私個人としては透き通った青空をバックに、瓦の形状が作り出す影の変化による表情の移り変わりが好きなのですが、残念ながら一度も太陽の光を目にすることが出来ませんでした。
ただ雨天・曇天時のしっとりとした屋根の表情もこれはこれで捨てがたく、何とも言えない風情を感じました。(私の腕では写真でこの雰囲気を伝えることが出来ず、申し訳ありません。)
「梲(うだつ)」
この家は明和6年(1765年)の創建で、以来何度も増改築を繰り返した典型的な尾張地方の町屋建築だそうなのですが、行ってみて驚いたのは「梲(うだつ)」があがっていたことでした。
「梲」は日本家屋の屋根などに用いられる防火壁を兼ねた装飾で、よく使われる慣用句「うだつが上がらない」は、甲斐性が無く「梲」をあげることが出来ないと言う意味から使われるようになった言葉のようです。
常滑やきもの散歩道・窯のある広場・世界のタイル博物館「建築系オフ会in名古屋-常滑散策編」 [屋根には「瓦」]
さて前記事の名古屋コーチン・手羽先・あんかけスパ「ソネブロ建築系オフ会in名古屋-名古屋メシ編」に引き続き、今回は翌日の常滑散策についてです。
とは言っても当日あまり天気が良くなかったこともあり写真をそれほど撮っていませんでしたので、過去に撮った写真をひっくるめて、まだこのBLOGで書いたことがない「常滑-やきもの散歩道」、そしてその後私たち家族で行った「窯のある広場」「世界のタイル博物館」「INAXライブミュージアム」について書かせていただきます。
名古屋コーチン・手羽先・あんかけスパ「ソネブロ建築系オフ会in名古屋-名古屋メシ編」
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2009-06-04
(名古屋メシ・名古屋B級グルメについての記事でもあります。)
私は常滑の街がとても好きです。
生まれてからずっと住んでいる「高浜市」は瓦中心で作る製品の種類が違いますが、常滑と同じく焼き物の街です。
瓦のまち高浜の古写真
いにしえの高浜・写真館-鬼みち案内人の会HP
http://onimichi.fc2web.com/old/top.html
幸いな事に常滑と比べて中国や東南アジアからの輸入という経済の荒波に揉まれることなく今に至っており、結果として子供の頃の印象に残っているところの瓦工場の建ち並ぶ街並みが消えてしまいましたが、常滑の「やきもの散歩道」を歩くと今も残る煉瓦煙突と板壁・瓦葺きの家屋や細い路地に、在りし日の地元高浜が思い起こされとても懐かしい気持ちになります。
そんなこんなで今回オフ会の副幹事になった際に、是非日頃建築に触れていらっしゃる皆さんにもこの雰囲気を感じて欲しいと思いこのコースを選択しました。
(博物館「明治村」という選択肢もあり、最後まで悩みました。)
やきもの散歩道を歩く建築系ブロガー諸氏と我が家族
前日終電の時間の関係で二次会の途中で別れた皆さんとは、知多半島道路の阿久比PAで待ち合わせをしました。
(私の方は、妻と3人の子供を連れた一家総出です。:自分のイベントにも家族を巻き込むというのが、私のポリシーです。)
ただその時間はまだ小雨が降っており(午前中の降水確率は80%でした)、一旦「やきもの散歩、道」を諦め「INAXライブミュージアム」「窯のある広場」「世界のタイル博物館」&「盛田味の館(ソニーの盛田さんの実家です)」のコースに変えようと走り出したら、いつの間にか雨もやみはじめ空が明るくなってきました。
まあこうなったら行くしかありません。再度仕切り直して「やきもの散歩道」に直行です!
「常滑-やきもの散歩道」
土管や焼酎瓶で作られた遊歩道/焼酎瓶
到着の時間が早かったので陶磁器会館に車を置き(遅いときは臨時駐車場ですがこちらもなかなか便利がよいです) 、早速街を歩き始めます。
やきもの散歩道のある集落は、恐らく元は陶土の採掘場所でもあった小高い山全体に広がっており、道の多くが坂道となっています。
その土留めや擁壁の保護に、不良で出荷できなかったものと思われる土管や焼酎瓶が埋め込まれており、独特の風景が広がります。
また都市開発の足跡がそれほど付いておらず、昭和30年代の建物と細い曲がりくねった路地がそのまま残っています。
やはり私から見ると瓦屋根がとても美しく感じます。
ほとんどの建物は昭和30年代以前の建物で、瓦は燻化させて素地まで黒い「いぶし瓦」と焼成の最終工程で塩を焚き込み表面に皮膜を造る製法の「塩焼き瓦」(赤い瓦:粘土中に含まれる鉄分の色です)の二種類の建物が大半ですが、時代の風雪を経た経年変化による色のバラツキが大変素晴らしく思います。
元焼き物工場の大屋根
NKHの連続TV小説「純情キラリ」では岡崎のの現存する八丁味噌の蔵元「カクキュー」がロケに使われましたが、現地に行って私は少し残念に思いました。
と言いますのが蔵の全ての瓦に塗装した跡があり、恐らく元々乗っている「塩焼き瓦」を「いぶし瓦」に見せていたのだと思います。(もしくは屋根を新しく見せるために、いぶし瓦の上に改めて彩色したのかもしれません。)
あれだけ立派な現役の八丁味噌の蔵ですので、「塩焼き瓦」のまま残っていれば素晴らしい景観だったはずなのに本当に残念です。(塗装の色は10年しか保たないというのに...。)
岡崎の旧家「石原邸's Cafe」&八丁味噌の郷へ子供と行きました(NHK朝ドラ「純情きらり」ロケ現場:「溜」たまり)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2007-10-31
瓦を外構で使ったら?(庭・ガーデニング・坪庭・空間演出) [屋根には「瓦」]
前の記事で、国内の瓦生産の6割を超える三州瓦の中核拠点である「我が街高浜」の近郊にある東端(安城市)西端(碧南市)を家族で歩き、日がな一日を過ごしたという記事を書かせていただきました。
個人宅開放「チューリップ祭り」&東端・西端の屋根・外構-プロローグ:山本大成 「かわら屋の雑記帳」
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2009-04-16
今回の記事ではその記事よりの派生で「瓦のガーデニングでの使用」についてと、地元で瓦の外構などへの使用についての展示があるそうなのでその紹介、そして施工例のあるHPの紹介記事とさせていただきます。
(ひょっとしたら、次に風切り丸や鬼瓦についての続々編も書くやもしれません。)
外構での瓦使用
例
今回の記事を書こうと思い立ったのは、上の写真のような瓦の使用例を家族での散歩の際に見つけたことによります。
実はこの種の使用例は意外と多く、屋根から降ろした瓦の再利用方として昔から一部では結構頻繁に行われていましたし、最近では瓦の新しい市場として着目した何人かの人たちが積極的に取り組んで専用の瓦を作ったり、新しい瓦を使った大がかりなオブジェクト作りなども行われる様になっています。
まだ私自身写真の整理があまり出来ておらず、写真ばかりが多くあまり纏まった記事とは出来そうにありませんが、何かの参考になればと思い書かせていただきます。
名鉄三河高浜駅-西ロータリー
中部国際空港(セントレア)
まずは大物ですが、大きなオブジェクトとしては上で紹介したような使用例があります。
愛知万博の際にも幾つかの瓦を使ったオブジェクトが空間を飾っていましたが、これについては私の方に写真が残っておらず現在写真の入手中です。
愛知県陶器瓦工業組合前-坪庭
もちろんこれらは大規模なものだけではなく坪庭など用に小振りに作ることももちろん可能で、瓦関係者の事務所前や自宅、店舗などの室内空間に設えられた坪庭は思いの外多くあります。
第4回飾瓦コンクールの作品展示(飾瓦・鬼瓦・鬼師・鬼板師) [屋根には「瓦」]
このBLOGでは過去数度にわたって飾瓦に関する記事を書いてきましたが、思いの外反応が良くて驚いています。
今年、全国の鬼師(鬼瓦職人)や一般・美術学生などを対象にした「第4回飾瓦コンクール」が行われており、偶々審査会場に並べられた飾瓦を見ることが出来ました。
これらの写真を紹介すると共に、2月24(火)~3月1日(日)の碧南市藤井達吉現代美術館での作品展示及び一般も参加可能なオークションについて案内させていただきます。
飾瓦は元々、屋根の所々に装飾性を持たせるものとして古い建物などでは結構使われてきていました。
(魔除けや願掛けの意味を持ったものも多く、京都の鐘鬼様や社寺仏閣の狛犬などもそうですし鬼瓦なども実用性を兼ねた飾瓦と言えるのではないかと思っています。)
先月伊勢神宮に初詣に行った際、おかげ横丁の建物の屋根の至るところにある飾瓦を見て私自身飾瓦の良さを改めて感じたと共に、平板瓦による洋風屋根を含めて現代の屋根でも十分使える可能性があると認識を新たにしました。
(と言うよりも、外装に変化を持たせて遊び心や洒落っ気を表現する事の出来る現代でも通用する面白い部材だと感じました。)
おかげ横丁で見かけた飾瓦「伊勢神宮初詣-後半:内宮編」&おかげ横丁の飾瓦・棟飾り(檜皮葺きも):山本大成 「かわら屋の雑記帳」
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2009-02-07
「第4回飾瓦コンクール」ポスター
この「飾瓦コンクール」は「伝統を未来へ伝えよう」とのキャッチコピーの元、古来より使われてきた屋根に於ける意匠材「飾瓦」の伝統を未来に伝えるべく行われてきたコンクールで今回が4回目になります。
「伊勢神宮初詣-後半:内宮編」&おかげ横丁の飾瓦・棟飾り(檜皮葺きも) [屋根には「瓦」]
前の記事で、伊勢神宮-外宮初詣と伊勢カトリック教会で行われた妻の友人の結婚式の記事を書かせていただきました。
雪辱!「伊勢神宮初詣-外宮編」 &友人の結婚式(今年もまたチョンボ!?)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2009-02-05嗚呼、痛恨の「伊勢神宮参拝」!?
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-01-15
今回はその続きの「伊勢神宮内宮初詣」と、おかげ横丁で目にとまった飾瓦や屋根関連の記事を書かせていただきます。
(前半部は親バカ記事ですので、飾瓦に興味のある方は前半は読み飛ばしてください。)
内宮-正殿前は例によってかなりの人(写真撮影はここまでです)
結婚式が終わると、お昼になっていました。
いつも内宮に行くとき気が重いのは駐車場で、例年のように午前7時頃の到着であれば内宮まで徒歩2分宇治橋脇の無料駐車場に止められるのですが、当然この時間では空いているはずもなく門前町であるおはらい通りのはるか手前、五十鈴川の河川敷にある距離の離れた有料駐車場の車列に並ぶ覚悟で、車を内宮に向かって走らせます。
しかし近づいてみると件の有料駐車場の入り口には車列があるものの、内宮に向かう道の渋滞が今年はなく、恐る恐る内宮近くの駐車場を物色します。
そしたらなんと、おかげ横丁の道を挟んで直ぐ西にある内宮まで徒歩10分の神宮会館の駐車場が空いているではないですか!?(もしやここは穴場!?)
自分で歩けない乳飲み子を抱っこで連れて行かなければならない私たちにとって、歩行時間が三分の一に短縮できることは天の恵みで、そそくさと駐車場に車を入れてしばし幸せな気分に浸りました。(なおかつ臨時有料駐車場より駐車料金も安い!:私の日頃の行いのおかげ?)
(いつも駐車する宇治橋脇の無料駐車場も止められる可能性がありそうでしたが、往復しているうちに駐車場が満車になってしまうと元も子もないので、決断しました。)
どうやら夜半まで振る続いていた激しい雨と強い風のせいで、車による日帰り圏内の方の多くが伊勢神宮参拝を取りやめられたらしく、こんな幸せを味わうことが出来たようです。
おはらい町の人混み
既にお昼を過ぎていたのでおかげ横丁内の伊勢うどんやさんに腰を落ち着け、テイクアウトで買ってきた「手捏ね寿司」と「伊勢うどん」を急いでお腹にかっ込みます。(両方伊勢名物で特徴のある食べものなのですが、写真を撮り損ねました。)
0歳児の次男「太陽」は当初ベビーカーに乗せていましたが、どうも気に入らないようで空のベビーカーに荷物を載せて妻が押し、私が抱っこで門前町であるおはらい町を内宮に向かって歩きます。
駐車場が空いていたとは言え内宮周辺ははやはりかなりの人出で(おはらい通りから神域内の参道に至るまでベビーカーを押して歩くのが大変でした)、早朝に行ういつもの初詣とは勝手の違う様子に多少戸惑いながら足を進めます。(これが本来の伊勢神宮なのでしょうね。)
あと2日で取り壊される宇治橋から望む日の丸
宇治橋を渡り内宮の神域にはいると直ぐに宇治橋架け替えを知らせるテントが出ており盛んに寄進を集めていらっしゃいました。
伊勢神宮は今、平成25年の式年遷宮に向けて様々な行事が進行中で、宇治橋は今年秋に新しい宇治橋の渡始式を予定しており、この2日後に行われた「宇治橋万度麻奉下(ほうげ)式」の後取り壊されて約半年の間は仮橋を通ることになります。
来年の初詣には新しい木の香の薫る宇治橋を渡れると、今から楽しみにしています。
瓦屋根の棟飾り&様々な棟(米子で見つけた変な棟?) [屋根には「瓦」]
前の記事で、妻の実家への里帰りの際に米子で見つけた妙な棟の写真を紹介しましたが、その後何故こんな施工の棟が葺かれたのか?よく考えても納得いかず、再度の紹介かたがた棟や棟飾のバリエーションを紹介させていただきます。
鳩の棟飾り
この棟が謎の棟!?
前に風切り丸の紹介記事を書いた際に思いの外反応が良かったことに気をよくして、いずれ棟や軒のバリエーションを紹介した記事を書こうと準備を始めてはいましたが、まだ施工写真をそんなに集めるにはいたらず、中途半端な段階の記事ですがご容赦下さい。
瓦屋根「風切り丸の機能性」(機能美が洗練された結果としての様式美:和瓦・和型J形瓦)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-01-24高い棟には意味がある「五重の塔縮尺模型での風力実験」「袖ヶ浦-瓦風力実験」
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-03-27
先々月、とあるお客様から「手作りでよいのでフクロウの棟飾が作れないものか?」との引き合いがありました。
話を伺ってみると、「ふくろう」という居酒屋の新築工事の屋根で、お施主様と元請けとの話の中で「店舗なので職人の遊び心を加えて、少し変わった意匠性を工夫して欲しい」と言うことになり、内装・外装の様々な職域の職人さん達が集まって何をしようか?工夫している中で出た引き合いのようでした。
とは言ってもどんな奇抜な意匠をしても良いわけではなく、あくまでも居酒屋という範疇で「和」の感覚を大切にした意匠が求められており、屋根も基本的には和瓦を使用し、その中でどんなことが出来るか?という事のようでした。
完成したフクロウの棟飾
もともと和瓦にはそんな「遊び心」が生かせる世界があり、古い街並みなどを見ると屋根の上に鐘鬼様が乗っていたり、鳥やネコが乗っていたりする場面を時々見かけることがあり、ものによっては既製品でも様々な遊び心が満足できる製品があったりします。
また、高浜市内には手作りの鬼瓦や様々な飾瓦を作る、「鬼師」と言われる職人の世界がまだ残っており、一品ものの世界もまだ十分機能しています。
久々にそんなことを思い起こしてくれ、大変嬉しい引き合いでした。
鳩の棟飾
「鬼みち」で見つけた高浜市内の社寺仏閣の飾瓦
瓦研究会(和瓦の振興·全陶連:全国陶器瓦工業組合連合会·ウォーキングトレイル「鬼みち」·産業観光)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2007-10-29
米子市内で見つけた鯱なども、有る意味これの一種と言うことになります。
鳥取県-米子市
いつか使って貰いたいと考えている棟飾りに、こんなのもあります 。
さて瓦職人の棟に関する「遊び心」は鬼の選定や飾瓦だけではなく、棟自体の施工にも現れます。
紐丸・厚のしを使った一般的な棟
さらには、こんな凝った棟もあります。
高い棟には意味がある「五重の塔縮尺模型での風力実験」「袖ヶ浦-瓦風力実験」 [屋根には「瓦」]
前に和瓦の屋根で時々施工されている「風切り丸」の有効性についての記事を書かせていただきました。
風切り丸の施工例
瓦屋根「風切り丸の機能性」(機能美が洗練された結果としての様式美:和瓦・和型J形瓦)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-01-24
その記事の趣旨は、古い瓦屋根の意匠はただ単に美しいからその施工が定着したのではなく、当時の職人の手によって様々な施工が試みられ、あらゆる災害に対して結果的に被害が発生しにくく機能的な工法が残ったのであって、その事実は最新の様々な学術的な実験や研究によって証明され始めているというものでした。
私自身もその様々な実験に立ち会い、建築における風や地震というテーマで研究を進めていらっしゃる先生方ともお話しさせていただく機会に恵まれ、多くの刺激を受けました。
きょうはその辺りから書かさせていただきます。
五重の塔も空力的な検討で様々な新事実が浮かび上がります
6年前に神奈川大学の大熊先生や泉創建エンジニアリングさんと合同で全日本陶器瓦工業組合連合会として、建築基準法で定められた「ピーク風力係数」が瓦屋根の要求性能として適当であるか?の実証試験を行ったことがあります。
(「ピーク風力係数」は平滑な表面を想定した理論値で、金属屋根のような平滑な表面形状では有効でも、表面形状に凹凸のある瓦ではオーバースペックではないか?との、私の書いた建築基準法改正時の政府が行ったパブリックコメントを切っ掛けに始まった実験です。)
海岸沿いの試験棟(左:和瓦/右:平板瓦)
この試験は実際に瓦が施工された実験棟で、空力的に代表的な部位に当たる数枚の瓦を一枚の中で表と裏の圧力を測定(4点)できるよう加工した模型瓦に換え、実際の四季の風の中でどのような力が瓦に働くかを実証しようとの非常に興味深い実験でした。
(平板瓦と和瓦の表面形状の違いによる差異や、瓦が飛ぶメカニズムなど大変興味深い実験結果が得られましたが、この記事の本題から外れるので記事後半に一部を参考として紹介させていただきます。)
その際に建築物にかかる風を専門として研究されていらっしゃる先生方に、私の方から前の記事に書いたような「『風切り丸』は空力的に考え抜かれた施行法ではないか?」との疑問を提示したところ、「非常に面白い、その可能性は十分ある!」として下記の図が示されました。
通常の屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)
風切り丸の屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)
通常の屋根では、屋根全体に添うように風が流れる物が「風切り丸」のような物があるとその風下側に渦が出来、風の流れが屋根表面から剥がされた形での定在流となり、結果的には瓦を引き剥がす力を相当弱める事に繋がる可能性が極めて高いと言うものでした。
また先生方の実際の五重の棟の縮尺モデルによる風洞実験の経験を例示していただき、屋根形状の空力的な影響は当初予定していたよりも遙かに大きく、今後研究課題とする価値が十分にあるとも語っていらっしゃいました。
防災瓦の機能と責任施工(ガイドライン工法) [屋根には「瓦」]
最近「防災瓦」なる言葉が一般の方々の耳にはいるようになってきました。
とは言っても、実際の「防災瓦」が如何なるものなのか実はあまり知られておらず、一度どんな瓦なのか図解して説明させていただこうと思います。
また「防災瓦」と言えども万能ではなく、実際にそれに応じた施工を行わないと機能を発揮できない場合があるという点も知っていただければと思います。
(実は、三州瓦のメーカーで現在普及しているタイプの防災瓦を最初に作ったのは、うちの会社です。)
長い記事ですが、「防災瓦」の機能や施工のチェックポイントについて出来るだけ解りやすく書いたつもりですので、最後まで呼んでいただけると嬉しく思います。
防災瓦は切り込み部のツメに秘密があります
10年ほど前までは、秋になり台風が上陸すると必ずTVなどで被害例として紹介されたのが「強風による瓦の飛散」でした。
それが最近ではほとんど瓦の飛散が取りあげられることはなくなり、むしろ金属屋根の飛散や、いわゆる軽い屋根材を乗せた事による小屋組ごと持って行かれるような例の方が多く見受けられるようになりました。
施工方法の進歩もさることながら、強風時の被害の削減に一番貢献したのが「防災瓦」の普及だったと考えています。
従来の瓦の施工イメージ
上の図は、従来の瓦の施工イメージです。
瓦は野地板状に固定された桟木と言われる木の棒に、棟側で釘により固定されていました。
(当時、実際には建築基準法の仕様では4枚に一枚、住宅金融公庫の仕様では三枚に一枚の固定しかされていませんでいたが、話を単純化するために固定された一枚のみを説明させていただきます。)
瓦は左右や棟方向に重ねられて施工されるわけですが、横に重ねられる瓦も上の図と同様に棟側でしか固定されていませんので、強風による引き上げ力が加わると下方になる軒側が持ち上がります。
一枚が剥がれるとその隙間が風を呼び込み、どんどん広い面積の瓦が飛んでいきます。
これが、強風により瓦が飛散するメカニズムです。
従来の瓦 防災瓦「バッチリくんPLUS」
上の二枚の写真を見て何が違うか、お解りになりますか?
この防災瓦は、雨漏りが起こりにくく緩勾配屋根にも対応した瓦で水返しなどの彫りが深くなっていますが、ポイントはその部分ではなくて右下部の切り込みにある「瓦のツメ」です。
このツメで瓦を引き剥がす力(軒側が引き上げられる)を右下の瓦に伝え、右下の瓦の釘が効くことにより持ち上げられるのに対抗しています。
風により瓦にかかる力のイメージ
建築デザインという仕事!(一部修正いたしました) [屋根には「瓦」]
先週お会いした方に、大きな刺激をいただきました。
地方の小都市で、建築デザインを主体とした付加価値のある仕事を成立させていらっしゃる方でした。
Ishikawa Design Office 石川設計 - livedoor Blog(ブログ)
http://blog.livedoor.jp/ishikawasekkei/
大都市圏であれば様々な職域の方がいらっしゃり、付加価値としてデザインを中心に据えていらっしゃる方も中にはいらっしゃる人もいるのでしょうが、その方が仕事をしていらっしゃるのは大都市圏ではなく、とある地方の10万人強の小都市です。(その地方の中核都市ではありますが、周辺をあわせて15万から20万人の商圏。)
またいわゆる地域間格差で新築工事が激減して、既存の建築関連業者が到底昨年並みの仕事量を確保できず施工単価も目に見えて落ち込んでいる地域のど真ん中で、昨年実際に5棟もの新築工事のデザイン&プロデュースを、自らのお施主に対する営業活動や口コミによって直接受注されているそうです。
その方の最大の武器は、「デザイン力」。
うちのお客様である屋根工事店を通して、その方がデザインされた建物の写真を何度か見させていただいたことがありますが、素晴らしいセンスを垣間見させていただいており一度お会いしたいと思っていました。
自らの仕事は「建築に関するプロデュース」であり、如何にデザインをコーディネートし各職域の信頼のおけるプロに振り分け一緒に仕事を進めていくかがポイントである旨、熱く語っていらっしゃいました。
また工事の監理も、デザインと建物について最終的な責任を持つと言う姿勢で真摯に行っていらっしゃるそうです。
現場では各職域の施工店が責任を持って施工を進めてほしいという観点から、施工店それぞれお施主様との個別契約という形をとり、支払いについては責任を持って行うという姿勢を貫かれてもいるそうです。
和瓦を使った差別化(平板瓦や新生屋根材・金属屋根材全盛だからこそ成り立つのでは) [屋根には「瓦」]
今週月曜日に、取引先の瓦工事店が施工をさせていただいている有る県の工務店(地域ビルダー)のチラシを持って帰ってきました。
そのチラシで紹介されている建物のほとんどは和瓦を使った木造住宅で、平板瓦やカラーベスト・板金屋根が全盛のこのご時世に逆らうかのような営業展開をしていらっしゃいます。
和瓦の家(カタログからスキャナー読込み)
その地位もご多分に漏れず、タ○ホームなどの新興ハウスメーカーも含むハウスメーカーの草刈り場で、住宅展示場を見ると平板瓦や新生屋根材のオンパレード、和瓦の家などどこに行っても見あたらない地域です。
営業がそのお客様に聞いた話では、
「どこの展示場を見ても、どのハウスメーカーの家も和瓦を使っていないので、あえて和瓦を葺いた家で勝負することによって、差別化をしているのだ。」
「どれだけ頑張っても、この地域の住宅の全てを自社で施工することは出来ない。ならば、1割でも良いので和瓦を好ましいと感じる御施主様は全て当社に来るように仕掛けをしているのだ!」
と仰っているそうです。
和瓦の家(カタログからスキャナー読込み)
そして、この考え方で営業展開するようになって、
「この世界は意外なことに競争も少なく収益上も有利だ」と気がつかれたそうです。
ただし、昔ながらの純和風でイメージされる入母屋屋根や本屋普請のイメージではなく、今風の味付けによって洗練されたデザインを心がけていらっしゃるようです。
「それが出来れば、十分差別化が可能になる」とも仰っていたそうです。
和瓦の家(カタログからスキャナー読込み)
瓦屋根「風切り丸の機能性」(機能美が洗練された結果としての様式美:和瓦・和型J形瓦) [屋根には「瓦」]
先日、このBLOGで「風切り丸(かざきりまる)」の写真を一点紹介させていただいたところ、最近の簡易施工の屋根のみを見慣れていらっしゃる多くの方たちに新鮮だったようで、思いのほか大きな反響がありました。
今回は、「風切り丸」の紹介とその機能性に付いて書かせていただきます。
風切り丸の施工例(役瓦の種類や施工で様々な装いの可能な和瓦)
業界紙へ寄稿「屋根の重要性の再認識こそが、粘土瓦そして和瓦の復興につながる」
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-12-13
まず「風切り丸」というのは、和瓦の施工で切り妻屋根の妻側(袖部:写真で言うと右端)に上から下まで傾斜に添って筋状に流した施工で、意匠によって重なりのない「素丸」と言われる冠瓦を流したモノや、重なりのある「紐丸瓦」を使ったモノ、二本流したモノや、途中で止めた施工など、様々な装いが可能です。
私は「風切り丸」を使った屋根が好きで、同じ切り妻屋根でも風切り丸があるかどうか?で、装いに大きな違いがあると感じています。
屋根の輪郭がハッキリして、なにか屋根全体の格調を高めているように見えますが、皆様はどう感じられますでしょうか?
使い方にはいろいろなパターンがあります
実はこの「風切り丸」は、意匠上の問題だけではなく、先人より培われてきた長い経験による必然性から生まれてきた物です。
昨今、地震による屋根の被害や家屋の被害が取りざたされることが多いですが、一生に一度あるかどうかの地震以上に、先人が心を砕いてきた災害があります。
それは台風などの強風対策で、最近こそ防災瓦の普及(三州で最初に今の形の防災瓦を製造したのは我が社だったりします)で被害事例は減りましたが、少し前までは台風が上陸すると必ず取りざたされてきたのが強風による屋根瓦の飛散であり、それを防ぐために先人たちは多くの智恵を引き絞りました。
例えば、独自の赤瓦で知られる沖縄の屋根は、瓦全てを漆喰で包んで接着し毎年訪れる台風に負けない屋根を作りましたし、冬の強い季節風に晒される新潟県などは、かなり昔から銅線による全数堅結など、それぞれの地域地域で災害に負けない独自の工法を育てていきました。
「風切り丸」はそんな先人の知恵が結集した、非常に優れた防災工法の一つでした。
都市としての風洞実験
屋根瓦の風洞実験
私の居る瓦業界では毎年の台風被害に何らかの歯止めをするために、数十年前より実際の風洞を使った縮尺模型による試験や、実際の建物を使ったフィールド試験、または風力を機械力に置き換えた工法試験など、学術的な観点から大学や公的研究期間と手を組んで様々な実証実験や理論検証を行ってきています。
その過程で
- 瓦は真ん中から飛ぶ場合はほとんど無く、切り妻屋根であれば妻側(袖側)から飛ぶ
- 寄せ棟屋根であれば、隅棟の近くから飛ぶ
- 端に近い棟際の瓦は飛びやすい
- 一枚めくれるとその隙間から風が入り、被害が屋根全体に拡大してゆく
等の結果が、浮かび上がってきました。
(これは、私たち屋根業界の人間が実際の台風被害の現場で感じていたのと、ほぼ同様な結果です。)
強風による屋根の主な被害箇所
今では、これらの被害は防災瓦の使用でほとんどの場合防ぐことが出来ますが、先人たちはどう対処したのでしょうか?
その対策の一つが、「風切り丸」だったのです。
建築基準法によるピーク風力計数の図
この図は、建築基準法で定められた切り妻屋根の各部に必要な風による瓦の引き上げ力を表した図(ピーク外圧係数)ですが、色の濃い部分は色の付いていない部分に比べて約二倍瓦を引きはがす力が生じることになります。
(この図を作るのにも、私たちの業界で行った試験が一役買っています)
上の写真をよく見てください。
前の図を見た後にこの施工写真を見ると、ピーク外圧係数の高い部分に「棟瓦」や「鬼瓦」、はたまた「風切り丸」や「下り棟(くだりむね)」が施工されていることにお気づきのことだと思います。
実は「風切り丸」のみならず、「鬼瓦」や「高い棟」、積み上げられた「隅棟」や「下り棟」、「巴蓋(ともえぶた)」にまで、意匠だけではない強風に対応するためのノウハウの積み重ねがあったわけです。
自家製の御福銭(修正有り。年賀の進物・おもてなしの心・岡崎-開運招福十二支霊場「崇福寺」) [屋根には「瓦」]
良くお邪魔させていただくアキラさんのBLOGに関連のコメントを付けさせていただいたのと、とある同業者に業界の新春祝賀会の場でお褒めの言葉をいただいたのに気をよくして、多少タイミングの遅れた、年賀の話を書かせていただきます。
たたかう★アキラ-お年賀
http://blog.so-net.ne.jp/go-go-akira/2008-01-11
我が社の年賀の進物、「御福銭」
うちの会社は父である社長のこだわりで、毎年新年の進物として「お福銭」を配っています。
はじめたのは確か平成2年のお正月だったと思いますが、ふとしたことで会社の近くで銭洗い弁天があるとの看板に気づき、そのお寺の住職にご祈祷いただいた後に硬貨を寺の中の泉で洗い、平成元年の五円玉と昭和64年の五円玉を二つセットでお客様にお渡しするようになったのが切っ掛けだったと記憶しています。
(当時私は別の会社に勤めていましたが、五円玉を大量に持って帰って来たのが印象に残っています)
開運招福十二支霊場一粒万倍銭洗い弁財天古刹蘆庵山崇福寺
以来十九年になりますが、当社の仕事はじめは事務所総出での御福銭の袋詰めから始まるのが毎年の行事のようになっています。(1000セット作ります)
市販の一番小さいパッキン付きのナイロン袋に自社で印刷した効能書(あえて社名は入れません)と一緒に詰めて、自社名の入ったその年の挨拶文と合わせ、お客様にお届けします。
中袋(表・裏)
進物用封筒
結構楽しみにしていらっしゃる方も多く、年始の挨拶にお邪魔できなかったお客様から、御福銭だけでも送って欲しいとの電話が、何本かはいります。
またお渡ししたその場で、一年前の御福銭を神棚から取り出し新しいものに取り替える場面なども何度か目にしています。
二十年近くも続けていることでもあり、お客様の中でも期待して待っていらっしゃる方が随分いらっしゃるようです。
先日同業者にお褒めいただいたのは、「会社名が入っていないのが素晴らしい!」「うちだったら色気が出てしまい、小さくとも会社名を入れてしまう」とのことなのですが、前に父にそんな話をしたとき「会社名なんか入れたら台無しじゃないか!」と笑っていたのを思い出しました。
(私も色気がある口なので、前に「小さくとも社名くらい入れよう」との話をしたことがありました。)
その社長さんは、話をしながら「これは去年いただいた御福銭だ!」と身につけていらした財布の中から一年前の御福銭を大事そうに取り出されたのを見て、思わず言葉を失いました。
業界紙へ寄稿「屋根の重要性の再認識こそが、粘土瓦そして和瓦の復興につながる」 [屋根には「瓦」]
先日、業界紙の出版社である日本屋根経済新聞社から季刊誌「ROOF & ROOFING」(以下 R&R)の記事の依頼がありました。
内容は「和瓦の復権」について書けとのことで、分不相応とは思いつつも気軽に引き受けてしまい悪戦苦闘するの羽目となってしまいました。
文字数が当初の依頼よりかなり多くなったこともあり雑誌の方ではかなり圧縮される見込みなのと、屋根業界ではこのBLOGはさほど知られていませんので、全文を紹介させていただきます。(○田さん、ゴメンナサイ)
(たいした物は書けないのでお恥ずかしい限りです。)
「屋根の重要性の再認識こそが、粘土瓦そして和瓦の復興につながる」
岡崎市-石原邸の瓦屋根
(和瓦が家も守っています:厳しい気象から家を守るのが屋根材に要求される性能)
建物と屋根「竪穴式住居には屋根しかない」
先日ネットを見ていて、「建築の原型は屋根である!」との設計士の方が書かれた記事を発見しました。
竪穴式住居など遙か古代に人間定住する住居が造られた際、基礎も構造も壁もなく雨風の気象変化から中に居住する人を守る為の「屋根」しか存在していなかった。その後、より快適な住居が求められるようになって初めて屋根の位置を上に上げるために柱が生まれ、壁がつき、それらを支えるために基礎が作られるようになった。つまり「建物で最も重要なのは屋根である」と言うものでした。
振り返って現在の住宅市場を考えた場合、最終ユーザーである一般のお施主様に屋根の重要性はほとんど認識されていないと感じています。住んでいる家の屋根材が何かを尋ねてもほとんどの方は屋根材に関しての認識がありませんし、仮に的確に答えられる方がいらっしゃってもハウスメーカーや工務店が薦めた屋根材だから選んだとの答えが大半で、ご自身が主体的に屋根材を選んだという状況は皆無に等しく、業界内の人間として寂しいことこの上ありません。
「瓦は重くて地震に弱いとのイメージ」と、屋根に一番必要な性能とは?
阪神大震災以来の「瓦屋根は地震に弱い」とのイメージにより、瓦業界はまだ完全に復活してはいません。それどころか毎回の大地震でマスコミより流れる倒壊した在来住宅の映像により、傷はますます深まっています。
業界内にいる人間ならば、倒壊家屋のほとんどが昭和56年以前の旧耐震基準によって建てられたものだと明確に説明できるのですが、それは一般のお施主様の常識となるところまで浸透しておらず「瓦は重いから使いたくない」などの声は未だ多く耳に入ってきます。
振り返って考えますに、「屋根材の重さ」と言うのは屋根にとって最重要な重要な性能項目なのでしょうか?
屋根に求められる要求性能に順位を付けるとするならば、あくまでも最重要な性能項目は「家本体と中に住まいする人間を、気候変化や様々な気象から守る」と言うことで、「屋根の重さ」などというものは若干の構造的な配慮によって対応できるもので屋根材としてはそれほど上位に位置する性能項目ではない様に思います。
山形県酒田市-山居倉庫
(今も使っている庄内米の米倉庫:厳しい気象から米を守ってきました)
建物の三大要素「基礎(地盤)」+「構造」+「屋根」
ここ十数年の建物の傾向として基礎や構造は大きく様相が変わってきました。一般のお施主様からすれば専門的で解らなかったはずの「基礎」や「構造」に注目が集まり、昔では考えられなかったレベルの工事が通常行われるようになりました。
これらの分野も本来は地味な職域で、住宅設備や内装に一番の関心がある状況ではともすると全体予算の関係でより簡便な工事、よりコストのかからない工事が横行していたにも関わらず、お施主様の関心そちらを向くことにより、業界が大きく変わったと聞いています。
ある方の弁を借りると、建物で最も大切な「基礎(地盤)と構造を数十年単位で守るものが屋根」であり、建物の三大要素=「基礎(地盤)」「構造」「屋根」とすら言うことが出来る。そして、一般の方達にそれを伝える事こそが本質的な屋根業界の経営安定への道で、基礎と構造についての高い関心をベースに「それらを守るのが屋根だ」との認識を普及出来る時勢が到来しつつあるのではないのか?と仰っていました。
業界の中にいるものとして、この言葉を重く受け止めなければならないように思います。
外装材としての意匠性「和モダン?」「景観保護」
業界内で和瓦の復権という話になると必ず出てくるのが「甍の美しさ」なのですが、残念ながら屋根の意匠性についてお施主様の関心はかなり低いように感じています。お施主様の関心の大半は内装や間取り・設備機器であり、希望する設備機器を入れるために屋根のグレードを落とすことすら普通に行われている有様です。
最近「和モダン」なる言葉がもてはやされていますが、住宅雑誌などで見る限りお施主様の意識はあくまでも住むことになる自分の目の届く「家の内部」に限定されており、外装についてはせいぜい「和モダン」と言う言葉に違和感を持たない程度であれば良く、どうしても和瓦を葺きたいというモチベーションにつながるような雰囲気は、ほとんど感じられません。
また景観保護という観点での取り組みも随所で見ることが出来ますが、休日訪れる場所に街並みとしての落ち着きを求めますが、自ら住まいする家にまでそれを広げてそれなりの意匠性を持った建物を建てようとするところまで広げていくのはそう容易いことではないように感じています。
瓦研究会(和瓦の振興·全陶連:全国陶器瓦工業組合連合会·ウォーキングトレイル「鬼みち」·産業観光) [屋根には「瓦」]
先日、瓦製造の全国組織「全国陶器瓦工業組合連合会」加盟各社のうち、若手有志が集まった「瓦研究会」の会議が、愛知県にて行われました。
この会の目的は、「都市部を中心に屋根材としての瓦の採用が減ったのを憂い、瓦振興の具体的な方策を探る」というもので、今回で4回の会議を重ねています。
岡崎市内の民家の屋根(美しいと思うのですが...)
これまでの会議では、瓦についての現状認識として以下のような意見が出ました。
- 一般のお施主様は、屋根材の違いを全く知らない(自分の家に何が葺かれているかすら知らないケースが大半)
- ハウスメーカーが持ってきた屋根材なら信頼できるとの認識で、お施主様はその中から選ぶのみ
- 瓦が重くて地震に弱いとの間違った印象の蔓延
- 和瓦は古くさいとのイメージ
- 業界の中では瓦の良さを共通認識として持っているが、お施主様のほとんどにはその認識はない
- 業界としてのPRは総花的で、何の役にも立っていない
- 和モダンが流行とか、和への回帰とか言われているが、内装の話ばかりで外装には関心が向かない
我が家の近所の建物(和瓦です)
私は本質的に、住宅を建てるお施主様の関心が内装や設備機器に向いていて外装材である屋根にほとんど関心が向いていないことが、もっとも大きな問題だと考えています。
実際に業界外の私の友人に聞いてみても、自分の住んでいる家がどんな屋根材で葺かれているかを知っていたのはわずか2人だけで、その二人とも実家が大工さんだったというのが現状でした。
一般のお施主様はその程度の関心なので、ハウスメーカーが薦める屋根材であればどれも同様に信頼できるものだとの意識で、お金をかけるのであれば設備機器や内装にお金をかけたいとの意識が働き、結果としてますます瓦が使われない建物が増えています。
ただ現実には、ハウスメーカーの家と言えども選ぶ屋根材によっては、結露による野地板の腐朽などによって家本体の寿命を縮めてしまっている事例なども山ほど有り、家本体を風雪から守るという基本性能を十分に持たない屋根材が実際には薦められているのが現状です。
(屋根面の断熱や結露対策がしっかり考えられた施工でないと、金属屋根や薄い屋根材は非常に危険です)
結局、どれだけ内装や設備機器にこだわろうとも、基礎や構造を含む家本体の寿命が短くなる屋根材を選んでいたのでは何をやっているのかよく解らず、「家本体の寿命を延ばし、家本体を守る屋根材を選ばなくてはならない」との認識を一般のお施主様に広く持っていただく以外に、瓦の振興という面では道がないとに思っています。
屋根材を選ぶのは、軽さではなく、30年以上家を持たせられるかどうか!!で....。
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-06-18
夏涼しく、冬温かい「瓦屋根」(屋根材による夏季・冬期の熱環境
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-06-20
これも和瓦
また、「瓦屋根は地震に弱い」との間違った認識を払拭するのは勿論大切ですが、どれほど軽量化を進めようとも金属屋根や薄型の屋根材のような軽さにすることは不可能で、その意味でも屋根材に本来求められる性能のうちもっとも重視せねばならないのは「家本体を色の環境変化から守る」と言う点で、軽さなどと言う性能はそれに比べれば遙かに優先順位の低い性能であると言うことを示せばよいとも考えています。
「瓦屋根は地震に弱い」は、正しくない!?(阪神大震災)
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-03-13
山形県酒田市 山居倉庫の屋根(美しいと思うのですが...)
そして、上記の現状に対する対策としては、以下のような意見が上がっています。
「ベタ基礎」でシロアリ。改築時の処理不能なコンクリート廃材。 [屋根には「瓦」]
このBLOGでは、あまり一般的に知られていない「瓦屋根の良さ」について、かわら屋(とは言ってもメーカです)の立場から出来るだけ多くの人に知っていただきたいとの思いで、時々記事を書いています。
「瓦屋根は地震に弱い」は、正しくない!?(阪神大震災)
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-03-13
夏涼しく、冬温かい「瓦屋根」(屋根材による夏季・冬期の熱環境)
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-06-20
屋根材を選ぶのは、軽さではなく、30年以上家を持たせられるかどうか!!で....。
http://blog.so-net.ne.jp/kawaraya-taisei/2007-06-18
私と同じようにあまり知られていない専門分野だからこそ解ることを記事にされている方が時々あり、ネットを徘徊している中で興味を持てる記事ののチェックを時々しています。
その中でここ最近、良いと言われている「ベタ基礎」や「地盤改良」について非常に興味深い記事を何点か発見しましたので、紹介させていただきます。
まずは、北陸でシロアリ防除をしていらっしゃるtoyo さんの記事です。
シロアリによる虫害にあった木材
toyoさんのBLOGでは、シロアリ防除の仕事をしていらっしゃる中でシロアリについての一般認識が低いのを何とかしようと、様々な専門分野の記事を書いていらっしゃいます。
今回特に気になったのは、シロアリが侵入しにくいと一般に思われている「ベタ基礎」が、実はシロアリの被害の温床に成りかねないとの物で、正直言って私の認識の中には無かった事象で少し驚いたようなしだいでした。
シロアリ屋の独り言-シロアリとベタ基礎
http://blog.so-net.ne.jp/siroari/2007-10-09
シロアリ屋の独り言-シロアリとベタ基礎・・・続き
http://blog.so-net.ne.jp/siroari/2007-10-09-1
シロアリ屋の独り言-コンクリートへの過信
http://blog.so-net.ne.jp/siroari/2007-10-10
ベタ基礎は地震に強くシロアリなども侵入しにくい基礎だと思われていますが、toyoさんに言わせると、コンクリートのベタ基礎の下はシロアリがもっとも好む空間で、コンクリートの亀裂などから容易に侵入して来るし、コンクリート自体がシロアリにとって侵入を阻む固い壁ではなく、十分に穴を空ける力も持っていて、ベタ基礎の建物でのシロアリ被害例なども出始めているそうです。
また、床暖房などもシロアリにとって格好の生息空間を生み出し、注意しないとシロアリ被害を呼び込むことに成りかねないとの指摘が書いてあります。