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地震で家が壊れる様を見てきました(E-ディフェンス耐震実験、そして瓦屋根)3/10追記有り [屋根には「瓦」]

 先週の水曜日兵庫県三木市にある、独立行政法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターの実験施設「E-ディフェンス:実大三次元振動破壊実験施設」で、木造家屋の地震による破壊実験を見てきました。

 (これが壊れた状態です)

 E-ディフェンスは、一般的な日本の戸建住宅のほか、鉄筋コンクリート造4階建て程度の実物の建物の震動破壊実験を行うことができる世界最大の実験施設です。

E-ディフェンス – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/E-%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B9

E-Defense  Home
http://www.bosai.go.jp/hyogo/index.html


 2年前にも同様の実験があり、木造2階建ての既存の建物を移築し、一棟はそのまま、もう一棟は耐震補強を行った状態で、阪神大震災時に震源に近くのJR鷹取駅で観測された実際の地震波で加震し、耐震補強の有効性を実証しました。

 2年前の実験)

E-Defense  Report(その際の報告書が上部「こちらをごらんください」からリンク)
http://www.bosai.go.jp/hyogo/live/live-wood.html

 

 その際の実験で耐震補強の有効性は実証されたのですが、今回の実験では耐震補強を完璧に行うことは、予算面でも施工性の面でもなかなか行われにくい現況を鑑み、不十分な耐震補強で地盤などの影響も加味した上で、どんな被害が実際に起こり得るか?を実証するために行われました。

 右が既存工法の建物(但し新築で再現したものです)、左が実際の周囲地盤を発泡スチロールを用いて再現(比較的地盤の悪い地域を想定)した上に基礎を施工し、右と同じ建物に不十分な耐震補強(壁の耐震化はしたが接合部が簡易なものになっている)を加えたものです。

 


 まず本震にあたるJR鷹取波(震度7相当:最大加速度 NS方向641.7gal・EW方向666.2gal・UD方向289.5gal)を与えた結果が下の写真です。(先ほどの写真とは撮影位置の関係で左右が入れ替わっていますのでご注意下さい)

 加震前)

 (加震後)

 前回の実験ではこの段階で既存建物が倒壊していましたが、実際の建物を移築した前回に比べ今回は同じ工法で再現した新築だったこともあり材の経年変化が進んでおらず、また分解移築による強度低下がなかったこともあり、倒壊には至りませんでした。

 

 次いで、JR鷹取波60%での余震を想定した加震です。

 (第2回加震後)

 この段階が、阪神大震災の震源地付近で実際に被災した場合の余震の影響も含めた建物の状況と言うことになります。

 

 既存建物の場合は倒壊には至っていませんが、外壁には応力によるクラックが多数入り、玄関のひさしも垂れ下がり、土壁などは見る影もなくはがれ落ちていて、非常に危険な状態になっています。

 それに対して、不十分ではあるが耐震補強を行った建物は外壁も含めて外側からはほとんど損傷が見られませんでした。

(不十分な耐震補強の詳細が発表にならないと何とも言えませんが、実際の建物に伝わる地震波は当然地盤を通して伝わるわけであり、不十分な耐震補強であろうとも一定の効果は実証できたと言えるように思います)


 最後に、破壊試験という意味合いでもう一度JR鷹取波の100%強度での加震があり、既存建物側は倒壊に至りましたので、連続写真で紹介します。

     (約3秒間の出来事でした)

 既存建物は、一階部分が倒壊しまるで平屋のようになってしまいました。

 なお、構造は同じにもかかわらず、2年前の倒壊建物と比べて(冒頭2枚目の写真と見比べてください)今回は反対側の壁側から倒壊が始まっており、ここからも「既築の古い建物と、同じ構造であっても新築との強度の差」、もしくは「2年前の試験で使った既存建物は移築による強度低下が明らかにあった」のではないかと推定されます。
(ちなみに2年前の実験の報告書によると、構造をシミュレーションした結果はもう一棟側への倒壊と言うことであり、今回の実験では何が違っていたかは検討が必要なように思います。:内側直角方向の土壁部分の経年変化が影響をもたらしているのかもしれませんが、新築の方がシミュレーション通りに行くはずでは?)

 

 もう一棟の方も、外壁にはクラックが入りさすがに被害無しというわけにはいきませんが、修理を行えば引き続き済むことが出来そうなように外観上は感じられました。(一回目及び2回目の加震ではクラックは発見できませんでした)

 

 第一回目の加震と同じ地震波であったにもかかわらず外壁にクラックが入ったと言うことは、加震によって応力変形を受けやすくなっていることは明らかなので、最終的には主催者の発表を見る必要があります。


 なお、瓦屋根については建物自体の構造的な実験でもあり脱落を起こさない現在の標準的な施工方法である「ガイドライン工法(全数喫結)」によって施工され、移築前の建物で使用していた葺き土はそれ相当の重しを2階床面に置くことによって対応していました。
(2階には被害が見られず、一階に被害が集中している要因として理解していただけるのではないかと思います)

 

 屋根に関して言えば、これだけの振動が加えられたにもかかわらず、無被害でした。(倒壊した建物にしても野地の変形による屋根の変化はありますが、2階屋の瓦は全く脱落していません)

 屋根業界としてこの実験で更に実証が進んだ点としては、以下が上げられます。

  1.  阪神大震災相当の地震にあったとしても、現在施行されているガイドライン工法であれば瓦の脱落はない。
  2.  現在行われている葺き土を使わない「引っかけ桟工法」であれば、建物自体の加重も軽くなっており、阪神大震災当時に比べ地震による建物本体の損傷は少なくて済む。


 以上取り急ぎ、実大振動台倒壊実験の速報を書かせていただきましたが、詳細についてはいずれ主催者からの報告が出るかと思いますので、そちらをご覧下さい。
(E-ディフェンスのHPの中にアップされると思います。またコメントで書いていただければ、私の解る範囲でお答えはします。)


PS.
 瓦屋根と建物の耐震性について、一般には根の深い誤解があり、数日中にこの速報の関連記事を書くつもりでいますので、出来ればご一読いただきたいと考えています。

(屋根が重いから家が壊れたのではなく、古い建築基準法の仕様規定によって建てられていたから壊れたと言う事実認識を、間違って認識していらっしゃるケースが非常に多いと感じています。:阪神大震災の場合も、木造家屋の倒壊現場の直ぐ脇では、同時期のの設計基準によって建てられた鉄筋コンクリート建物を含む在来工法以外の建物も倒壊していました。建物が建った築年度の建築基準の違いが原因であって、瓦屋根だから壊れたという結論に異論があります。)


 

(3/10追記)
 構造的にもう少し知りたいとの声があり、2年前の試験の際の平面図がありましたので、追加しておきます。

(尚、この図面は2年前の試験の際の耐震補強を施した建物の平面図ですので、今回の試験とは補強の内容は異なります。写真との位置関係は、玄関の位置でご確認下さい。)


 

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コメント 9

出張、お疲れ様です。
今回の記事も力作ですね。読み応えがありました。
我が家も瓦ですので、安心しました。
by (2007-03-08 20:27) 

浜松自宅カフェ

ご報告、ありがとうございます。
本当、力作でしたね。お疲れ様でした。
一点解せないのは、「既存側」と「耐震補強側」で地盤条件を変えてある
のは何故なのでしょう?
変動要素が2つ(地盤と耐震補強)あるので、ちょっと混乱してます。

ところで、これとは別に「伝統構法」の木造建築物をEディフェンスで加震
した動画を、日経BPのウェブサイトで拝見しました。
これも中々興味深い内容でしたね。
伝統構法の耐震強度が科学的に解明され、設計に採用できる日が待ち
遠しいですね。
by 浜松自宅カフェ (2007-03-09 10:21) 

たいせい

 STALTHさん、瓦が地震による倒壊の原因か?ということではNOなのですが、その家の建築年度の違いによって強度に関する要求仕様が違うのと、瓦の施工法が変わってきていますので、古い家の場合だと今の基準でどうか?と言う点については、専門家に見せた方がよいのかもしれません。
 ただ、元独立行政法人建築研究所の岡田先生に言わせれば、屋根が重い屋根材か?重い屋根材か?での違いは、一回床面積83平米の家の場合で壁倍率2の壁(45mmの筋交いの入った壁)3枚(1間半)の違いしか無く、金属屋根業界や石綿スレート業界が言うほど大きな差は無いと言うことのようです。(逆に言うと屋根の葺き替えではなくとも壁3枚に筋交いを入れれば同等)
 本来の屋根(外装材)の目的は、家本体を環境変化から守り長持ちさせることと、美観を守ることですので、今でもやはり「瓦は一番優れた屋根材」だと言えると自信を持っています。
(詳しくは、数日中にアップする予定の関連記事を読んでいただければ嬉しいです)

 コメントしにくい記事に、nice!&コメント、本当にありがとうございました。
by たいせい (2007-03-10 13:53) 

たいせい

 浜松自宅カフェさん、今回の実大試験の目的は主催者の発表ではこうなっています。
① 地盤と基礎の影響を検証
 これまでの振動大実験とは異なり、実際の建物のように地盤状に基礎を施工し、その上に木造建築を設置して実験を行う。これによる無菌コンクリート基礎の破壊やアンカーボルトの碑聞く気などを再現し、耐震性能に及ぼす影響を検証。
② やむをえず不十分な耐震補強となる場合の影響を検証
 木造住宅を耐震補強する場合、隊亜kべりょうを増やすだけでは十分ではない。耐震壁の性能を十分発揮させるためには、周囲の接合部を金物などで固定する必要がある。しかし現実にはそれが難しいのが現状であり、接合部の補強を十分行えない場合の耐震性に及ぼす影響を検証する。
③ 経年変化の影響を検証
 前回は築30年の建物を移築して実験を行った。今回は同一の試験体(建物)を新しい材料を使って再現することで、木材の腐朽やモルタル壁の経年変化が建物の耐震性のに及ぼす影響を検証する。

 基本的に「既存建物」の方は、2棟とも新築で行っている今回の試験に於いて「前回の試験との比較」を行う意味と、③項の「経年変化を明らかにする」意味合いで設置し、
「不十分な耐震補強」の側は、前回の試験で全く行われていない、①項の「基礎と地盤の影響を明らかにすること」と、②項の「不十分な耐震補強と耐震性能の関連を明らかにする」ために設置されたと認識しています。

もう一つ穿った見方をすれば、
 「大都市大震災軽減化特別プロジェクト(大大特)」の目的自体が、
「大都市圏で阪神大震災に代表される大地震が起こった際に生じる人的・物的被害を軽減化・半減化できることを目的とし、地震防災対策に関する科学的・技術的基盤を確立する。」
ということで、「リスクマネジメント」が主目的で、「既存構造物の耐震性の評価および補強」は確か3番目か4番目の事業目的だったように記憶しています。
 それに基づいて、実際の被害予測・行政としての推進目標を明らかにするために、「実際に行いやすい耐震補強」で「実際を想定した地盤の上」で「どんな被害が生じるのか」を明らかにする意味合いもあったのではないか?と、私は深読みしています。
(新築の場合は、2年前の試験で要求性能と工法の有効性の実証は終わっていますので....。)

 nice!&コメント、ありがとうございました。

PS.
 本文の「E-ディフェンス」のリンク先に、かつて行われたほとんどの試験の動画を見ることが出来ますので、興味があったら見ていただくと良いように思います。
by たいせい (2007-03-10 14:50) 

たいせい

 takagiさん、初めまして
 もし何か気がついて事でもありましたら、気軽にコメントいただけると励みになります。
(所詮は個人がやっているBLOGですので、気軽なコメント大歓迎です)

 nice! ありがとうございました!
by たいせい (2007-03-10 14:56) 

nina

瓦屋根でもちゃんと作っとけば壊れないんですね!
阪神大震災の時はウチのアパートの屋根はボロボロになりましたけど、あのあたりから工法というかガイドラインというか・・・そういうのが変わったんでしょうか?
続きの記事を楽しみにしています。
by nina (2007-03-11 12:53) 

たいせい

 ninaさん、阪神大震災の時は私もお客様との打ち合わせがあり2週間後に現地付近(長田)に入りましたが、本当に大変な状況だと思いました。
 済んでいらっしゃる方は本当に大変だと思うのと同時に、当時は私も全く別の業界でサラリーマンをしていましたが、TVが在来の瓦屋根ばかり写して、その隣で倒壊したり傾いたりしている鉄筋コンクリートにあまり触れていないのに違和感を覚えました。
(実家が瓦工場だったので気になりました。マスコミの方達は当時、実際に起こったことの分析よりも、倒壊が絵になる在来工法の映像ばかり流していて、それが今につながる瓦屋根の退潮ムードの切っ掛けになりました。)

 結局、阪神大震災を切っ掛けに建物の耐震強度に関する基準が大きく変わり、今建っている家ではどんな建物でも当時に比べれば遙かに高い耐震強度を得るに至っています。
 屋根についても、元々の瓦屋根というのは野地板の上に土を置き、その上に瓦を並べる湿式工法だったのですが、今では桟木と言われる木材を水平方向に何本も打ち、その桟木に瓦を引っかけ釘で留め付ける「引っかけ桟工法」が一般的になり、屋根上の重量も軽く瓦も脱落しないようになりました。
(元々の湿式工法の方が、夏涼しく、冬暖かく、過ごしやすい家になりますが....。また、昔の考え方は、数十年に一度あるか無いかわからない地震の際には、わざと瓦を脱落させ家本体を守るという考え方でした。)
 「ガイドライン工法」は「引っかけ桟工法」が更に進化したものと考えていただければよいと思います。

 結局、阪神大震災を大きな切っ掛けとして、瓦屋根のみならず、地場の大工さんや工務店が大きく退潮し、ハウスメーカーが大きく伸びました。
 震源地付近に建築実績がないにもかかわらず「阪神大震災で、うちが造った家は大丈夫だった!」なんていうハウスメーカーを何とかして欲しいとp思う今日この頃です。
(同じ築年数で、同じ建築基準なら、ハウスメーカーの家も壊れていたはずです。宣伝広告費や高い販売管理費に大きな利益を乗せた、原価率50%を割る家が、同じ条件で無事なはずはありません。)
by たいせい (2007-03-12 08:55) 

練馬のんべ

地震がまた起こりました。まず被災なさった方にお見舞い申し上げます。
それにしてもNHKニュースを見ているとまた瓦屋根の倒れた家を繰り返し流していますねえ。NHKはわざわざ壊れた家の中で瓦屋根の家を選んでいるようにしか見えません。
by 練馬のんべ (2007-03-25 12:33) 

たいせい

練馬のんべさん 、慌ただしくてなかなか返事が書けず申し訳ありませんでした。
 能登の地震については、今のところ私の方でも断片的な情報で、個々の被害の状況・全体像などまだ私の手元にも入っていませんが、報道で見る限り瓦屋根の家が被災したと言うより、建築基準法の旧基準の家が被災し、結果としてその建物のほとんどが地域性などもあり瓦屋根だったと言う認識でいます。
 マスコミの報道も今回、会社によって対応がまちまちで、「瓦屋根が重いから被害を受けた」との報道から、「古い家が被災を受けた」「地震の規模にしては被害が少なかった」まで様々で、一昔前に比べてステレオタイプされた価値観での報道ではなくなってきているとの印象を受けました。
 ただし、映像は木造瓦葺きの在来工法の被災家屋が大半で、風評被害が心配です。

 コメントありがとうございました!
by たいせい (2007-03-29 08:31) 

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