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高い棟には意味がある「五重の塔縮尺模型での風力実験」「袖ヶ浦-瓦風力実験」 [屋根には「瓦」]

 前に和瓦の屋根で時々施工されている「風切り丸」の有効性についての記事を書かせていただきました。

11196999.jpg 11197020.jpg 
 風切り丸の施工例

瓦屋根「風切り丸の機能性」(機能美が洗練された結果としての様式美:和瓦・和型J形瓦)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-01-24

 その記事の趣旨は、古い瓦屋根の意匠はただ単に美しいからその施工が定着したのではなく、当時の職人の手によって様々な施工が試みられ、あらゆる災害に対して結果的に被害が発生しにくく機能的な工法が残ったのであって、その事実は最新の様々な学術的な実験や研究によって証明され始めているというものでした。

 私自身もその様々な実験に立ち会い、建築における風や地震というテーマで研究を進めていらっしゃる先生方ともお話しさせていただく機会に恵まれ、多くの刺激を受けました。

 きょうはその辺りから書かさせていただきます。

 

 五重塔.jpg 五重の塔も空力的な検討で様々な新事実が浮かび上がります

 6年前に神奈川大学の大熊先生や泉創建エンジニアリングさんと合同で全日本陶器瓦工業組合連合会として、建築基準法で定められた「ピーク風力係数」が瓦屋根の要求性能として適当であるか?の実証試験を行ったことがあります。
(「ピーク風力係数」は平滑な表面を想定した理論値で、金属屋根のような平滑な表面形状では有効でも、表面形状に凹凸のある瓦ではオーバースペックではないか?との、私の書いた建築基準法改正時の政府が行ったパブリックコメントを切っ掛けに始まった実験です。)

 袖ヶ浦和瓦.jpg 袖ヶ浦平板.jpg
 海岸沿いの試験棟(左:和瓦/右:平板瓦)

 この試験は実際に瓦が施工された実験棟で、空力的に代表的な部位に当たる数枚の瓦を一枚の中で表と裏の圧力を測定(4点)できるよう加工した模型瓦に換え、実際の四季の風の中でどのような力が瓦に働くかを実証しようとの非常に興味深い実験でした。
(平板瓦と和瓦の表面形状の違いによる差異や、瓦が飛ぶメカニズムなど大変興味深い実験結果が得られましたが、この記事の本題から外れるので記事後半に一部を参考として紹介させていただきます。)

 その際に建築物にかかる風を専門として研究されていらっしゃる先生方に、私の方から前の記事に書いたような「『風切り丸』は空力的に考え抜かれた施行法ではないか?」との疑問を提示したところ、「非常に面白い、その可能性は十分ある!」として下記の図が示されました。

 屋根-風 風切り丸無し.png
 通常の屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)

 屋根-風 風切り丸.png
 風切り丸の屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)

 通常の屋根では、屋根全体に添うように風が流れる物が「風切り丸」のような物があるとその風下側に渦が出来、風の流れが屋根表面から剥がされた形での定在流となり、結果的には瓦を引き剥がす力を相当弱める事に繋がる可能性が極めて高いと言うものでした。

 また先生方の実際の五重の棟の縮尺モデルによる風洞実験の経験を例示していただき、屋根形状の空力的な影響は当初予定していたよりも遙かに大きく、今後研究課題とする価値が十分にあるとも語っていらっしゃいました。

 その内容は、台風などの強風時の五重塔の風力特性を明らかにするために、市販の1/75の醍醐寺五重塔の模型(詳細模型)と壁及び屋根のみを再現した物(簡易模型1)、簡易模型1に降り棟を加えた物(簡易模型2)、幅と高さを同様に造った正方形角柱をそれぞれ風洞に入れて風力試験を行った物で、特に五重の塔特有の高い降り棟(隅棟)の有る無しで風力特性が大きく異なることが解り、実験して驚いたというものでした。
(日本建築学会での発表論文は私の手元にあります。必要でしたらご連絡下されば、送らせていただきます。)

 つまりは、「風切り丸」や五重の塔の降り棟をはじめとする「隅棟」、高く積まれた「大棟」など、空力的な観点に立てば明らかに気候風土や災害に対処する先人の試行錯誤の結果と読み解くことが出来、単に意匠や見栄のための様式ではないということです。

11197020.jpg 風切り丸

 

 また、最近では大棟に三角冠や七寸丸の一本伏や六寸丸にのし瓦一段などの低い棟が多くなってきていますが、今一度高く積んだ棟の効用について考える必要性を感じています。

 屋根-風 一本伏普通勾配.png
 棟の無い屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)

 屋根-風 棟普通勾配.png
 
棟のある屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)

(高く積んだ棟の施工は、負圧が多く掛かる棟際の瓦に重量をかけ飛びにくくする効用がこれまで言われてきたわけですが、実際には風力的な効用も明らかにあることが解りました。)


 最近、瓦屋根に限らずあらゆる屋根に言えることですが、低勾配(緩勾配)の屋根形状が増えていますが、これだと
棟部の屈曲点の角度が大きな物になり低い棟と組み合わさると風の流れがスムーズに流れる形状で棟際や風下側の屋根面に大きなマイナスの風力係数がかかることも想定できます。(留め付けにより対処は可能ですが、低勾配は雨仕舞的にも不利です。)

 屋根-風 一本伏急勾配.png
 急勾配の屋根を流れる風(青矢印)と瓦に掛かる力(ピンク矢印)

 寄せ棟.jpg 
寄せ棟屋根の隅棟では屈曲点の角度差が小さくなります 

 特に寄せ棟屋根の隅棟部などは大棟以上に頂部の屈曲点の角度差が小さくなりますので、隅棟をそれなりの高さで積んだ方が台風や冬の季節風などの強風被害を受けにくい強い屋根となります。

 

 なお私たちのいる瓦業界から見る限り、防災瓦の普及や瓦施工の工法の変化により最近の台風被害は瓦屋根よりも金属屋根や新生屋根材の方に多く発生しているとの実感がありますが、この要因としては

  1. 屋根材として軽すぎる
  2. 表面が平滑で風がスムーズに流れ負圧が多く発生する
  3. 棟を積まないことで屋根を舐めるように風が流れる
  4. 低勾配で使われることが多い
  5. 屋根材自体に隙間が無く小屋組内のピーク内圧係数がストレートに掛かる(参考をご覧下さい)

 などが挙げられるように感じています。

 

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 「参考:袖ヶ浦の実験について」

 平成14年度と15年度の2年にわたって行われた「袖ヶ浦での実際の建物を使った瓦に掛かる風力実験」について、私の印象を書いておきます。
(本来ならば記事一本分くらいの内容はゆうにあるのですが、専門的すぎる内容になりますのでエッセンスのみ書いておきます。)

 袖ヶ浦和瓦.jpg 試験棟の施工風景(白い瓦が測定用の模型瓦)

 袖ヶ浦の泉創建エンジニアリング敷地内の海に面した土地で行われた試験は、木造二階建ての試験棟を二棟建て、そこに実際の和瓦や平板瓦を葺き、①実際の四季の風の中で瓦に働く力を明らかにしよう、②瓦の表面形状の違いによる風の乱れが実際の瓦に掛かる力にどの程度影響するかを調べる、非常に意欲的な試験でした。

 試験体J.jpg 試験体F.jpg 試験用の瓦模型(左:和瓦・右:平板瓦)

 そこに、瓦の露出部4点に穴を空けて圧力の測定が出来る様に加工した瓦を測定したい部位の瓦に変えて施工します。
(裏側にも測定穴が明けられており、瓦表面と裏側の圧力差をデータロガーによって測定し記録します)

 

 この試験を始めるに当たって、先生方と打ち合わせの中で感じたのは「ピーク風力計数」の意味についてでした。

 11197107.gif 屋根の部位による「ピーク外圧係数」

 「ピーク風力係数」は、流体力学の法則(流体の流れに接すると負圧が働く:飛行機で揚力が発生する原理)によって導き出される「風の中で屋根材表面に働く負圧」と、「小屋裏の静圧」との差で屋根を引き剥がす力が生じると言う考え方によって導き出される係数で、建築基準法では屋根の部位によって上図のように定められています。(色の濃い部分に負の大きなピーク外圧係数が掛かります。)

ピーク風力計数.png 


 ただしこれは屋根部全体を構造的に見た場合には有効であるが、屋根材個々(瓦一枚一枚)に掛かる力と言う意味では一枚一枚単位での検討が必要で、特に瓦のような微少な隙間がある状態で並べられる屋根材では一枚一枚の瓦の表と裏での圧力差の測定をしなければ、試験として意味を持たないと言うことでした。

ピーク風力計数 和瓦.png

 実際の実験でもこれは証明され、風が強くとも風速が変わらない場合は「ピーク風力係数」は予測を下回る小さな値を示し、風速の変化が大きいときに大きな「ピーク風力係数」が計測されました。

 これは金属屋根など屋根材の表面と裏の隙間がほとんど無い屋根材の場合は、建築基準法通りの「ピーク風力計数」に耐えねばならないが、瓦などの微細な隙間がある屋根材の場合、現行の「ピーク風力計数」はオーバースペックに当たる可能性があると言うことでもあります。

 前々回の建築基準法改正時(平成12年)、これまでの仕様規定から性能規定が取り入れられ、はじめて「ピーク風力計数」なる考え方が提示されましたが、新しい基準による性能試験では保つはずの無い屋根が実際の台風時には災害が起きずに済む例なども思いの外多く、オーバースペックではないか?との意見が一時業会に巻き起こりましたが、どうやら要因はこの辺りにあったようです。

(ただ、現在行われている防災対応の施工の大半は、より値の大きな建築基準法で定義された数値を基準に工法試験を済ませた方法で施工されていますので誤解無きようにお願いします。:研究途中ですのでリスク無きように大きな値を試験基準として使用しています。)

防災瓦の機能と責任施工(ガイドライン工法)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2008-03-11


 また瓦の隙間や空気層は、断熱や野地板の結露による腐朽対策に一役かっています。

 夏涼しく、冬温かい「瓦屋根」(屋根材による夏季・冬期の熱環境)
http://kawaraya-taisei.blog.so-net.ne.jp/2007-06-20


 なお、平板瓦と和瓦での表面形状の違いによる実測値の違いについてですが、明らかに違いのある結果が得られたものの研究自体がまだ端緒についたばかりで、差異のメカニズムについて明らかに出来るところまではまだ行っていません。(いずれどこかで紹介したいとは思っています。)

PS.
 訪販系の屋根のリフォームで、ラバーロック工法なる変成シリコン系接着剤を用いて瓦の隙間をふさぐ工法が一時業界を席巻しました。
 この工法を行った事による、とんでもない被害事例なども耳に入っていますので、いずれ記事を書きたいと思います。

PS2.
 瓦の隙間の風の流れをコントロールするという観点で開発した瓦が、実はうちにはあります...。

 

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コメント 24

toyo

大変勉強になります。
実は昨日、某工務店で屋根の素材と勾配について、私は「たいせい様の考え方?・・・ヘンな言い回しですね」で、いろいろ質問したのですが悲しいことに・・・結局はお客様の「予算」に行き着いてしまい、いくらいい家をたてようと大工さんが頑張っても、お客様が望まない限りはねえ?なんて言われてしまいました。悔しいけど一般の人の意識を変えるところから始めなくちゃあダメなのかなあ?なんて思いました。安かろう悪かろうでは結局お客様が損をするのにね。私も瓦屋根の良さを宣伝しますので頑張ってくださいね。それからいつも丁寧なコメントありがとうございます。
by toyo (2008-03-26 22:43) 

たいせい

 toyoさん、恐らく屋根に関わる方達でもなかなか解っていただきづらい記事を最後までお読み下さりありがとうございました。
(高い棟や屋根勾配には意味がある旨を伝えようと思って記事を書いたのですが、ややこしく書きすぎてしまったと反省です。)

 お施主様の「予算」。
 うちのお客様も常に直面して頭を悩ませています。
 現実には塗り替えなどのメンテナンスを1~2回分考慮に入れれば、金額的には十分おつりが出るのですけど、なかなか辛いところだと感じています。
 結局、お施主様の頭の中に屋根材によって差があるのだという認識が無く、屋根材ならどれでも同じだという意識が心の中にあるから起こることだと感じています。
 一般の建築の場合、屋根工事業者は建築会社や大工さんの下請けではいり、屋根工事業者がどれほど瓦が良いと思っていても直接お施主様とお話をする場がほとんど無く、お施主様の意識を変えるところまで到底たどり着けないのが現状です。
 私たちのようなメーカーがその部分を埋めて、一般向けの周知活動を行っていかなければならないのでしょうが、なかなか上手くいかないのが悩みのタネでもありますが、地域によってはここまで和瓦が少なくなった今こそ建築会社にとっても差別化部材になりうる物だと信じて、何とか活路を見出そうとしているのが現状です。

 nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-03-27 09:10) 

ijimari

とっても難しいお話ですね。
自動車が早く走るような設計をするのと
似ているのでは?って知ったかぶりで思いました~
by ijimari (2008-03-27 12:33) 

mike

空力的なことも含めてですが、緩勾配の屋根には、個人的に疑問があります。特に木造は、です。

負圧を減らす他に、まずは雨仕舞です。
それと、一見無駄なようですが、小屋裏空間を確保するというのは、空間自体でも断熱に寄与しますし、入ってしまった湿気の流動性を確保するなどです。

瓦という材料を一般の人に啓蒙し、理解してもらう。
設計という職能を一般の人に啓蒙し、理解してもらう。
通ずるものがあると感じました。
by mike (2008-03-27 21:22) 

STEALTH

瓦屋根にこんな秘密があったとは・・・・エアロダイナミクス的な効果まであるんですね。
日本人の知恵に感動です。
by STEALTH (2008-03-27 21:53) 

nina

いや〜、面白い。
面白いです。
私は素人ですから、「風が屋根の上を流れたらF1マシンのウイングのようにダウンフォースが働くんじゃないかな?」なんて思ってましたが、飛行機が飛ぶ際のように上面に負圧がかかって飛ばされるんですね。
詳しい事はサッパリですが、素人でも何となくイメージできるので面白いです。
さらに、五重塔なんてのは風に弱いように思ってましたが、昔の人の技術ってのは凄いモンなんですね〜。
地震も台風も多い日本で、高層木造建築が何百年も残ってるんですもんね。
素晴らしい!
素晴らしいです!
by nina (2008-03-27 23:45) 

たいせい

 ijimariさん、自動車などの空力設計の場合は一定方向から吹く一定の強さの風を想定すればよいので比較的扱いやすいのですが、屋根などの建築物の場合は自然界の風を扱わねば成らず、風速・風向ともに千差万別に変化する中での挙動を把握せねば成らず、研究もまだそれほど進展していないのが現状です。
  研究ポイントとしては、挙動を明らかにするという考え方ではなく挙動の変化を有る一定の範囲でおsまる様にコントロールするという考え方に当面なろうかと思いますが、これらの建築物に対する風を専門に研究していらっしゃる先生方とお話しさせていただいて思うことは「経験の中から先人は、よくぞこれだけの工法を編み出されて来たものだ」と驚かされることが実に多くあります。
 決して現在の研究によって生み出された物に負けておらず、むしろ最近の研究で諸先達の試行錯誤の評価が出来る程度にまでようやく科学が進みつつあるのだと言うことを思います。
 私は屋根の世界でしかこれらを評価することは出来ませんが、恐らくもっと多くの分野で古の職人の英知が発揮されているように感じています。

 コメントありがとうございました!
 また今後ともよろしくお願いいたします。
by たいせい (2008-03-28 08:37) 

たいせい

 mikeさん、低勾配における雨仕舞の問題、仰るとおりだと思います。
 少し話が変わりますがここのところ陸屋根の屋上防水について思っていることがあります。
 うちで若干なのですが台湾への輸出がありますが、台湾では戸建て住宅だけではなく高層マンションなどにも瓦か使われる場合が結構あります。
 というのが、屋上防水を経年変化も含めてしっかり行うのはかなり難しく、また仮に雨漏りがあった場合にも水漏れ場所の特定が難しいとの考え方で、あえて傾斜屋根にして瓦を葺くケースが増えています。
 国内に於いても築後それなりに時間を家的他マンションなどで、屋上防水が上手くいかなくなって雨漏りが発生するなどの例を聞くことが増えているように感じています。
 私の聞く限り、戸建て住宅でも一時流行った陸屋根が無くなり、傾斜屋根が大半を占めるようになった背景はこれだと聞いています。
 高層建物に傾斜屋根、そして瓦葺きなんて、難しいですかね?

 nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-03-28 08:48) 

たいせい

 STEALTHさん、最新の研究をしていらっしゃる方ほど先人の叡智に驚かされることが多いと聞いたことがあります。
 この記事で紹介した件も、当初は意匠上の問題だと思っていた棟や風切り丸が理にかなった工法で、最新の研究でも色あせることなくむしり輝きをより一層増していることに気付き驚愕しました。
 「日本の職人」。 舐めるべからずです!

 nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-03-28 08:55) 

たいせい

 ninaさん、ほぼ一定の速度と風向を想定できる車などの空力設計に比べ自然界の風を扱わねばならない建物の風に関する研究はまだ始まったばかりで、実験方法や理論的なシミュレーションの手法なども確立していないのが辛いところです。
 ダウンフォースとまでは行きませんが、少なくとも理論的には風をかき乱して負圧を発生させない瓦の形状などもあり得るのではないか?などと考えたこともあります。
 この実験の切っ掛けになった平成12年度建築基準法改正に関する政府のパブリックコメントに対して私が書いた意見書では、表面形状の平滑な屋根材での理論値を凹凸のある屋根材にそのまま適応されるのはおかしいとの趣旨を書いたわけですが、結果としてこのような大がかりな実験にも結びつき、私自身非常に大きな勉強の場を与えていただきました。
 理論検証の手法などを持たない先人の職人達。
 その技と叡智によって創られた物は、現代でも決して色あせることはないと感じました。

 nice! &コメント、ありがとうございました!
 
by たいせい (2008-03-28 09:17) 

アキラ

最近の瓦葺きの棟は、積んでも「のし」2枚程度が多いようですね。
以前は最低4枚は積んでいたように思いますが、たった2枚でもその差は大きく表れるのでしょうね?

和瓦で解らないのは「オニ」
魔よけ・火よけの意味の他に、やはり風に対して何らかの働きがあるのでしょうか?
by アキラ (2008-03-29 10:44) 

たいせい

 アキラさん、和瓦の出荷量は三州全体でも随分落ち込んでいますが、のし瓦や鬼瓦の出荷減は棟が低くなったことにより使われる比率自体が下がり目を覆いたくなるほどです。
(専業で焼いている工場や職人さんなどは、大変な事態に立ち至っています。)

 鬼瓦についてですが、一般的に言われている魔除けや火事・水害・台風などの災害よけという意味以外私もよく知りませんが、よく考えてみると鬼の顔をした物以外に古い社寺仏閣などでは鴟尾や鯱などの例もあり、原型はいったい何だったのか調べてみる価値はありそうです。
 風的に考えると、この記事の後半で参照させていただいた屋根の部位によるピーク外圧係数の図で見ても、屋根全体の中でもっとも負圧が掛かる部分に鬼瓦は使われているわけで、重量によってそれに対抗する意図だったようには思われます。
 それをどうせ置くのであれば、某かの意味を持たせようという意味だったのかもしれません。
 一度調べてみようと思います。

 nice! &コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-03-29 15:02) 

ひろ♪

はじめまして♪
瓦についていろいろ見ていたらたどり着きました
瓦って奥が深いですね~
何んとなくしかわかりません(笑)

うちも瓦の葺き替えを予定していますが 結構お金がかかりますね~
でもせっかくなので良いのにしたいのですが・・・
しっかり検討したいと思います☆
by ひろ♪ (2008-07-05 22:59) 

たいせい

 ひろ♪さん、屋根材に限らずなのですが最近巷でよく使われている使われている建材や構法などは、日本の気候風土の中で20年以上の実績を持たず信頼性の裏打ちのないものが多いと感じています。

 どんな状況での葺き替えか解りませんので深いコメントが出来ませんが、瓦屋根の葺き替えを他の屋根材で行うと、同時に野地面での断熱性を確保する工事をしなければ野地板の腐朽など建物本体の寿命を縮めてしまう可能性も高いと思っています。
 最近の施工法であれば、以前に比べて耐久性も増していますので、やはり粘土瓦で葺き替えられた方が良いと思います。

 コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-07-07 13:16) 

ひろ♪

コメントありがとうございます
現在の瓦は岐阜瓦(?)で25年程たっています
数年前の地震でぐちゃぐちゃになってしまって 今では瓦がずって来ているので危ないな~って感じています
そこで葺き替えの話が出てるんです

今度は奈良瓦の本葺きを計画しています
しっかりと瓦屋さんと相談しないといけないですね

by ひろ♪ (2008-07-09 22:07) 

たいせい

 ひろ♪さん、本葺きというともしや、社寺仏閣や休暇のお仕事なのでしょうか?
 奈良の瓦だとの件、了解いたいました。
 三州にも本葺きや手作りの鬼師の世界が有り、きちんと機能していますので、三州瓦もご健闘下さると嬉しく思います。
(旧知の業者で社寺仏閣を専門にしていらっしゃる方もおり、話を繋ぐことも可能です)

 商売気のあるコメントで失礼しました。
 再度のコメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-07-10 17:22) 

ひろ♪

まぁ その類です
先日 業者との話し合いの結果 奈良瓦の本葺きで決定しました
せっかくお話いただいたのにすみませんでした

ちなみに住んでいるところの屋根瓦は三州瓦ですよ♪
by ひろ♪ (2008-07-18 11:57) 

たいせい

 ひろ♪さん、恐らく奈良の方ならそんな心配は要らないと思いますが、建設会社主体で話が進んだ結果、屋根工事部分の予算が社寺仏閣には見合わない額まで減らされてしまい(屋根工事の実行価格)民家並みの仕様で葺き替えが行われる屋根の話を最近時々耳にしています。
 お施主として納得いかれる工事となることを期待しています。

 再度のコメントありがとうございました!
by たいせい (2008-07-21 08:32) 

テンセイ

たいせいさんのブログを拝見して非常に勉強になりました。風圧の知識がなくても理解できました。勾配や棟の高さの重要性が風圧に関係していたとは驚きです。しかし昨今のハウスメーカーが造っている家では逆に構造上の問題から重い棟は躯体に影響するのではないか?と思われます。国はそういったことも踏まえて超長期住宅の推進をするべきだと思います。
 瓦の推奨を今後もされていくことと思いますが、粘土瓦のなかにも釉薬瓦、いぶし瓦、塩瓦といろいろありますが、それぞれに性能の違いがあり、一般にはあまり知られていないのが現状だと思います。全て同じ性能で同じ年月の耐久性があるとは思いません。三州瓦のなかでも違いがあると思います。そういった部分を一般の方はどう比較すればよいですか?ちなみにプロの目から見て吸水率、耐久性を鑑みてどこの瓦が一番優れていると思いますか?
by テンセイ (2008-11-20 16:00) 

たいせい

テンセイさん、この記事は過去記事になっても私としては大変愛着のある記事で、コメントいただけたのを大変嬉しく思っています。
 この記事を書く際に思ったのは、伝統とか様式というのはカビ臭い迷信の中にあるのではなく、昨今ようやく可能になりつつある科学の目で紐解いていくと某かの理由があり、機能美と言うところに収束する面が多々あるのだと言うことでした。
 振り返って最近の建築を考えると、これまで日本の気候風土の中で培われ熟成が進んだ工法・構法を全く無視して新しく作り上げる方法で進んでおり、様々なバランスを無視したモノが多く、様々な問題はその部分に発生していると感じています。
(耐震性もバランスの問題ですし、経年変化や耐久性の検証なしに高断熱が普及したことでシロアリや木材腐朽の問題が大量に発生しつつあります。: ただ、この「棟」程度の重量ではさほど影響はないと考えますがいかがでしょうか?)

 お問い合わせの件ですが、瓦の種類により出荷地域が棲み分けされている場合が多く一概に比較できないと感じていますが、私の感覚としては「釉薬瓦」「いぶし瓦」「塩焼き瓦」などの彩色の違いによる耐久性の差はほとんど無いように思います。
 それよりも影響が大きいのは、よく知られているように「オイルショック時の瓦は焼成が甘く凍・害塩害が発生しやすい」などの問題で、同じ粘土を原料としても焼き締めが甘いと耐久性に大きく影響する可能性が高く、その意味で昨今の原油高騰による燃料高は、オイルショック時と同様の焼き締めの甘い瓦が蔓延する可能性を持っていると感じています。(現に瓦素地への水の浸透度合いは、昨今メーカーによって明らかな格差があるように感じています)
 また、耐久性という観点では瓦の形状というのも大きなファクターで、瓦の重ね合わせで瓦裏の通気性が確保されている和瓦などに比べて、平板瓦などは瓦裏の湿気の逃げ場が無く(つまり湿潤状態が緩和されにくく常に素地が水分飽和に近い状態と言うことです)、これによる耐久性の差の方が遙かに大きいように感じています。
 この件については、記事を書くべく準備をしていますのでまた読んでいただければ幸いに存じます。
by たいせい (2008-11-22 14:14) 

てんせい

回答有り難うございます。確かにたいせいさんの言うことに一理あると思います。しかし燃料高によって中途半端な製品を作るというのはあってはならないことだと思います。色々な製造業で不祥事が相次いでいますが、そういったことをしていれば遅かれ早かれ問題になると思います。最近のハウスメーカーの使っている瓦をみるといかにも軽いあまり焼かれていないような瓦ばかり目に付きます。まだ、瓦を使っていればましなほうかもしれませんが・・・。たいせいさんのブログを見ていると「いぶし瓦」が多いように思われますが、機能的にみて吸水率とか強度はあまり強くないと聞くのですがどうでしょうか?確かに地域的なものが深く関与してくると思いますが、いぶしの瓦は寒い所だとすぐ割れるとよく耳にします。
by てんせい (2008-11-25 15:12) 

たいせい

 てんせいさん、一時三大産地のうちの一つ淡路産の瓦がこれまで売ったことのない北国や雪国に進出を始めた際に、吸水率が高く凍害や塩害がよく発生していたと聞いていますが、同じ産地の瓦を比較した場合には焼成の違いによるメーカー間格差はあったとしても、少なくとも吸水率や曲げ破壊強度などは陶器瓦といぶし瓦間の差はほとんど無いように感じています。(淡路産の瓦も今は随分吸水率・曲げ破壊強度も高くなっているはずです。)
 ただ現実には、日本海側で作られ使われてきた瓦は昔から釉薬瓦で、太平洋側はいぶし瓦が多いのは事実で、塩害や凍害に対してはガラス質の釉薬部分が関与して耐久性の面に於いて何らかの作用をもたらしているかもしれませんが(凍害・煙害などの場合、陶器瓦でも釉薬の掛かっていない素地から犯されていき、釉薬部分は意外と保っています。:オイルショック時に作られた焼きの甘い瓦での被害瓦を観察すると)、これらの地域はもともといぶし瓦が使われていない地域で、比較対象を持っておらず私には評価できないというのが正直なところです。

 焼きの甘さにメーカー間格差があるのは事実ですが、特に様々な被害の予見される地域で仕事をしていらっしゃる屋根工事を営んでいらっしゃる屋根工事業の方達はこの事実をよく認識しており、あえて作業性の悪いよく焼成された堅い瓦を選んで選択して仕事をされている場合も多く、お施主様の立場で言えば信頼できる施工店を選ぶ(もしくは信頼できる簗工事店を使っていると信じられる工務店・元請けを選ぶ)と言うことが非常に大切なのではないかと感じます。
(焼成の甘い瓦の方が、焼成時のネジレが発生しにくく歩留まり(良品率)が高く、燃料も少なく済むため価格も安い場合が多いですから、地域によってはそちらの方が価格面で有利な場合もあり得ます。)

 前のコメントで今後書くつもりといった記事ですが、瓦の形状と耐久性の問題(野地板の耐久性に及ぼす影響も含めて)、陶器瓦(釉薬瓦)と本いぶし瓦の耐久性について書こうと思っています。
 今暫く慌ただしく少し後になるかもしれませんが、そちらでもこの件には触れようと思います。

 再度のコメント本当にありがとうございます。
 過去記事でもコメント大歓迎ですので、気がついた記事がありましたらどんどんコメント下さると嬉しく思います。

PS.
 ちなみに私は、和型陶器瓦(釉薬瓦)の製造メーカーですので、写真の多くは「いぶし銀色の陶器瓦」のものが多いと思います。
 ただし、この記事のような施工例の写真などは適当な物件の写真をあまり気にせず使っていますので、本いぶしの瓦での写真も意識せずに紹介しています。
by たいせい (2008-11-26 10:48) 

てんせい

コメント有り難うございます。(焼成の甘い瓦の方が、焼成時のネジレが発生しにくく歩留まり(良品率)が高く、燃料も少なく済むため価格も安い場合が多いですから、地域によってはそちらの方が価格面で有利な場合もあり得ます。)←こういう考えで瓦を選ぶといいものは選べないですよね?確かに瓦を施工する業者の問題(平板やハウスメーカーの仕事ばかりしている)はかなりあると思います。土葺きがいいとは一概に言えませんが、瓦とは多少にわりのあるもので、それを上手く葺くのが施工業者の腕の見せ所ではないでしょうか?20~30年持てばいいというのであれば瓦じゃなくてもいいと思います。イニシャルコストがかかってもランニグコストを抑えればいいことだと思います。目先のお得感ばかり考えてはだめですよね!
実際にたいせいさんのところの瓦で一番古く残っているものは何年ぐらいですか?
by てんせい (2008-12-03 12:45) 

たいせい

 てんせいさん、塩害や凍害に対するコストがオーバースペックになる地域も現実にあり、各地で責任施工を標榜していらっしゃる施工店の「目利き力」「判断力」を見極める、お施主様の力や判断力が必要かもしれぬといった意味でのコメントのつもりです。(寒冷地でリスクのある淡路の瓦は、寒冷地以外では別の存在意義があります。)
 行儀の悪い瓦(ネジレなど)を葺く職人の腕という面では確かに仰るとおりなのですが、メーカーとしてはより施工性の上がる行儀の良い瓦を作る責任も持っています。
 そのバランスの中で各社各様の判断をしているというのが現状だと、認識しています。(その中で焼きの甘そうな瓦が寒冷地に来ている例も実際にあるのが問題ですが...。)

 我が社に関しては、この燃料高騰下に於いて愚直にもヒートカーブ(焼きの強さ)や釉薬濃度を変えずにやってきて、結果的に操業休止に追い込まれました。
 日本一の陶器瓦を作っているとの自負の元に製造を続けても、市場の評価を得られない世情となっています。
 愚痴になりますが、私は現況を強く憂れいている者の一人だと思っています。

 コメント、ありがとうございました!
by たいせい (2008-12-06 18:12) 

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